ヤンゴン証券取引所の上場基準(新会社法の施行により一部の外資合弁企業も上場が可能に)
日系企業の多くにとっては無関係であろうが、今回はヤンゴン証券取引所の上場基準について解説する。
今後開放される外国人取引に際して、投資家としては投資対象となる企業がどのような基準で上場しているかを把握しておくことも知っておくと良いだろう。
<外資との合弁会社の上場可能性>
新会社法により外国人投資家がヤンゴン証券取引所(YSX : Yangon Stock Exchange)の上場株式へ最大で35%出資出来るようになることは、すなわち外資系企業との合弁企業が上場することも可能となる。
ミャンマー企業の中には資金調達手段の多様化或いは企業ステータス向上を意図して取引所への上場に関心を持つ企業経営者が多い。
このような企業経営者は外資系企業と資本提携を行うことにより、旧会社法下では上場の道が閉ざされて来た(外国会社は上場が認められない為)。
この為、上場を図る為には現在運営されている法人では無く外資との合弁会社を別途設立することが余儀なくされてきた。
典型的な例としては、ミャンマー・ティラワSEZ・ホールディングス(MTSH)であり同社は100%内資の持株会社としてYSXに上場している。
同社傘下に日系商社との合弁会社であるミャンマー・ジャパン・ティラワ・ディベロプメント(MJTD)を設立し、当該傘下企業の41%の株式を所有している。
上場には至ってこなかったものの、同様のスキームはミャンマーの他企業においても用いられてきた。
新会社法の運用が開始されれば、これまで合弁会社として運営されてきた法人にも直接的な上場の道が広がる。
仮に現状ミャンマー50%:外資50%とされている会社であっても、公募増資による希薄化によりミャンマー資本の比率を65%以上へ高めるさえすれば上場は可能である。
<YSXの上場基準(2015年8月13日公表)>
将来的には日系企業とミャンマー企業の合弁会社がヤンゴン証券取引所に上場を図るケースも見られる可能性がある為、現状はあまり日本の企業の方には関心は無いであろうが、ヤンゴン証券取引所の上場基準について解説していく。
第1項.It shall be a registered company limited by shares in accord with the Myanmar Companies Act, conducting the business in line with the public company’s features and procedures.
会社法に基づく株式会社であること。
第2項. It shall have at least 100 shareholders and above.
株主数が100名以上であること。
※ これは上場日時点において必要なもので上場申請段階でこれに満たなくても、上場時の公募増資において株主数を増やせば良い。
第3項. Paid-up capital shall be the minimum of kyat 500 million on the date of application.
上場申請時点において、払込資本金が5億チャット以上であること。
※ 上場会社になる為には公開会社(Public Company)になる必要があり、当該公開会社の最低資本金は5億チャットである為、本規定は不要では無いかとの意見もあった。しかし、公開会社の管轄は投資企業管理局(DICA)であり、将来的に異なる規定が適用される可能性もあったため、本規定を上場基準として含めた。
第4項. It shall have the profit at least 2 years during the period of before the date of application.
上場前の2期間において利益を計上していること。
※ これは2期間通算で利益が出ていれば良く、従って仮に2期前に大幅な赤字を計上していても、直前期でそれを打ち消す利益を出していれば本基準は充足可能である。
第5項. The business shall have the stable basic income and conduct in accordance with the existing laws.
適法な事業より安定的な収益が計上されること。
※ 定量基準であり、上場審査において上場申請会社の将来収支計画等をもとに判断することになる。
第6項. The Board of Directors and the heads of the company shall be in good character and have had not been having any punishment by a court, in addition, have not been facing any lawsuits. They shall perform their duties and responsibilities with well-prepared, in good-faith and fairly in line with the laws.
上場申請会社の取締役及び経営陣の適性に問題が無く、訴訟等を受けていないこと
※ 経営陣については事業上重要な影響を与えると判断される役職員と解釈出来る。また、訴訟についても実質的に重大な訴訟等を対象としているため、役員に軽微な訴訟があったとしても直ちに充足されないわけではない。
第7項. The Board of Directors and the heads of the company shall not act any deceptive manners by the public for the interest of the company and self-interest.
上場申請会社の取締役及び経営陣が不正を行っていないこと
第8項. Each Director of the public company shall not do any business which has the same interest carrying out by the public company, except with the approval of Shareholder meeting.
役員による競業事業が行われていないこと(但し株主による承認が得られている場合を除く)
第9項. The company, the Board of Directors and the heads of such company shall not be included in the black list of any public and government organizations.
上場申請会社、取締役、経営陣が政府機関等のブラックリストに掲載されていないこと
※ ミャンマー政府内では内務省、中央銀行等においてブラックリストが存在している模様であるが、具体的にどのリストへの掲載かは明らかにされていない。
第10項. Book-keeping of accounts and auditing of the company shall be undertaken in accordance with the Myanmar Accounting Standards and Myanmar Standards on Auditing.
ミャンマー会計基準(MFRS: Myanmar Financial Reporting Standards, MAS : Myanmar Accounting Standards)による決算書が作成されていること
※ 公開会社はMFRSの適用が求められているため、本基準も不要と言えば不要であるが、第3項と同様に最終的に盛り込まれた。
第11項. The company shall fulfill tax duties in accordance with existing tax laws of Myanmar.
納税義務が果たされていること
第12項. The disclosure of relevant corporate information and the facts that the public should be known, shall be disclosed and submitted to the Securities Exchange Commission of Myanmar and Yangon Stock Exchange, besides it shall be disclosed and announced to the public by means of easy understandable and best suitable ways in timely manner. For disclosure of corporate information, it shall prescribe especially and precisely on the matters which have a considerable impact on investment decisions of the investors, such as the risk factors for the potential loss and the basic potential business activities.
投資家に必要な情報(投資に伴う損失等のリスク情報も含めて)がわかりやすく適正に適時開示されること。
第13項. It shall set up an effective system to comply with laws, rules and regulations by appointing the compliance officer.
コンプライアンスオフィサーの任命により遵法体制が構築されていること
第14項. It shall have business plan containing business design, business process environment and the risk factors.
将来的な事業環境やリスク情報を含めた事業計画が策定されていること
第15項. It shall set up a system to prevent the insider trading.
インサイダー取引防止体制が構築されていること
第16項. It shall continuously operate and manage stably without any influence by keeping soundness of good corporate governance, internal management and internal control system.
健全な企業経営体制により継続的な事業運営が可能なこと
第17項. It shall have rational expectation to get a profit base upon stable revenue
安定的な収益を元にした利益獲得が出来ると合理的に見込まれること
<実務運用基準>
なお、上記の上場基準とは別にYSXは上場規則(Securities Listing Business Regulations)を設け、上場基準の明確化を図っている。
定量基準(Formal Criteria)
1.上場日時点において浮動株が5000株以上、或いは浮動株時価総額が5億チャット以上となることが見込まれること
2.上場日時点において株主数が100名以上となること
3.直近2期間の利益合計がプラスであること
4.上場申請時点における払込資本が5億チャット以上であること
5.事業開始から上場申請日までの期間が2年以上経過していること
6.公開会社(Public Company)であること
7.ミャンマー会計基準(MFRS)に準拠した決算書を作成していること
8.上場申請時点において株式の譲渡制限が撤廃されていること
9.YSXに対して株主管理業務を委託することにつき同意すること
10.YSXが株式振替業務を行うことにつき同意すること
実質・定性基準(Substantive Criteria)
1.事業の継続性と収益性が保たれていること
2.企業経営の健全性・公平性が保たれていること
3.コーポレートガバナンス及び内部統制が有効に機能していること
4.企業情報が適正に開示されていること
5.その他YSXが公益及び投資家保護の観点から必要と判断する事項
<上場手数料>
上場審査手数料 : 150万チャット
新規上場手数料 : 上場日の時価総額の0.05%
追加上場手数料 : 追加上場株式数に募集価格を乗じた金額の0.05%
新株募集手数料 : 募集新株式数に募集価格を乗じた金額の0.04%
既存株募集手数料 : 募集既存株式数に募集価格を乗じた金額の0.01%
年間上場手数料 : 年度末(3月末)の時価総額の0.005%
例:仮に時価総額1000億チャットの企業がIPO時に200億チャットの公募を行い、100億チャットの売り出しを行う場合の上場にかかるコストの合計。(おそらく合っていますが、正確な計算はYSXまで)
150万チャット + 1200億チャット × 0.05% + 200億チャット × 0.04% + 100億チャット × 0.01% = 7050万チャット
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