ミャンマー資本市場創設メンバーが語るミャンマー経済・投資の実際

ミャンマー企業による海外市場でのリバーステイクオーバーによる上場(リバーステイクオーバーとは)

リバーステイクオーバー(RTO : Reverse Takeover)は、Reverse Merger或いはReverse IPOとも呼ばれ、未上場会社が既存の上場会社の買収を通じて、新規の上場申請のプロセスを経ることなく上場を果たすもので、その為日本語では裏口上場とも呼ばれる。

裏口上場と言えば聞こえは悪いが、RTOはそれ自体に違法性は無く、上場の一手法である。

但し、新規上場プロセスの形骸化を招きかねないことから、各国の証券取引所において制度上の枠組みが設けられている。原則的には新規上場審査の枠組みに準じた規制をかけることとされている。

通常RTOでは、未上場会社が比較的規模が小さく経営不振に陥っている上場企業をターゲットとして行われることが多い。

上場企業の株式を買い占め(或いは大量の新株発行を引き受ける)ことで支配権を持ったうえで、株式移転等の組織再編スキームを組む。これにより、上場ステータスを維持したままで、実質的に未上場会社が上場企業と一体的に運営することが可能となる。

本プロセスにおいて、買収された企業の実態は概ね消滅することから、上場企業としての社名も変更されることが多い。

 

RTOを活用することでより短期かつ低コストで未上場企業の上場を果たすことが出来るという側面がある。

IPOにかかるコストや時間は各国の資本市場により異なるものの、日本では特にその準備の時間軸が長いことからRTOに対する誘惑も多い。

実際、これまで日本の証券市場における活用の事例は多く見られるものの、悪用とも見られる事例が散見されてきたことから概して市場関係者からはネガティブに見られがちである。

 

<ミャンマー企業のRTO事例>

ミャンマーでは国内資本市場の活性化をすべく各種施策が進められているものの、資金調達の為の市場としては依然魅力が薄く、そのため海外市場に目を向くミャンマー企業経営者も少なくない

以前ミャンマー関連株式として紹介したMemories Group はミャンマー企業によるシンガポール市場でのRTOの2例目であった。

第1号案件はMemories GroupにRTOを行ったYoma Strategic Holdings自体である。

同社の創業者かつオーナーであるSerge Punは、2006年にシンガポールメインボードの企業を買収したことによりシンガポール市場での上場を果たした。

外国人によるミャンマー企業へ投資機会は現状限られているため、海外市場で上場を行うミャンマー企業のバリュエーション(株価評価)は概して高くなりがちである。このことが今後もミャンマー企業を海外上場へ誘因することにつながっていく可能性がある。

 

<MAXグループによるRTOの失敗>

一方、ミャンマー企業によるRTOの失敗事例も見られる。

2013年、ミャンマー大手財閥のMAXグループは、同グループのエネルギー部門(ミャンマーで21箇所のガソリンステーションを有すMax Strategic Investments Pte. Ltd. )の海外上場を果たすため、シンガポール市場(SGX : Singapore Exchange)上場企業であるAussino社を買収しRTOを行う計画を立てていた。

Aussino社は寝具販売を行う企業であり、業績不振から経営の継続性が懸念される企業であった。

MAXグループの規模及び資金力の観点からはその実現性に問題は無かったものと見られる。

実際、RTOのプロセスは最終段階まで至った。

しかし、結果としては最終意思決定機関となるシンガポール金融当局のMAS(Monetary Authority of Singapore)は2013年4月同社のRTOの申請を棄却する決定を下し、RTOは失敗に終わった。同発表の翌日Aussino社の株価は58%急落した。

ミャンマーでは当時2015年の証券取引所開設に向けた計画を進めており、国内市場の空洞化を防ぐ観点からミャンマー企業による海外での上場を警戒する向きもあった。

当時私もその当事者ではあったものの、ミャンマー政府からシンガポール当局に対する要請及びその類似行為は一切なく、決定は完全にシンガポール側の判断によるものであった。

MAS(シンガポール当局)及びSGX(シンガポール取引所)によれば棄却の理由は、人権侵害事案(ミャンマー軍事政権時代の土地接収への関与)や納税状況にかかるMAXグループに対する質問事項について十分な回答が得られなかったこととされている。

真実は不明であるものの、MAXグループは当時米国による経済制裁のリストに含まれており、この事が原因では無いかと囁かれている向きもある。

なお、2016年にMAXグループ各社及びオーナーのU Zaw Zaw個人にかかる経済制裁は全て解除された。

 

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