ミャンマーの人事・労務(雇用契約、休暇、社会保障、解雇補償の取扱い)
海外での企業経営を行う際に、その国の人事・労務にかかる基礎知識は欠かせない。
特にミャンマーでは、この分野について複雑な法制が敷かれているので注意が必要だ。個別の規定毎に法令が分散されており、労働法という一つの法令が存在するわけではないことから、参照すべき原典が分かりづらく面倒なのだ。
新たにミャンマーへ進出する日系企業からも特に問い合わせの多いテーマが人事・労務関連であるため、今回はこの分野について最低限把握しておくべき事項を解説していきたい。
<労働関連法令>
以下は、労働者の権利義務等について定めた個別の法令であり14存在する。
1 労働者災害補償法(The Workmen’s Compensation Act, 1923)
2 雇用統計法(The Employment Statistics Act, 1948)
3 工場法(The Factories Act, 1951)
4 休暇及び休日法(The Leave and Holidays Act, 1951)
5 油田(労働及び福利厚生)法(The Oilfields(Labour and Welfare)Act, 1951)
6 雇用制限法(The Employment Restriction Act, 1959)1
7 海外雇用に関する法(The Law relating to Overseas Employment, 1999)
8 労働組織法(The Labour Organization Law, 2011)
9 労働紛争解決法(The Settlement of Labour Dispute Law, 2012)
10 社会保障法(The Social Security Law, 2012)
11 最低賃金法(The Minimum Wages Law, 2013)
12 雇用及び技術向上法(The Employment and Skill Development Law, 2013)
13 賃金支払法(The Payment of Wages Law, 2016)
14 店舗及び商業施設法(The Shops and Establishments Law, 2016)
上記の中で、ミャンマーでの企業経営において一般に留意しておくポイントとしては概ね以下の事項であり、最低限これらの基礎知識は把握しておきたい。
<雇用契約の締結>
雇用及び技術向上法(The Employment and Skill Development Law, 2013)は、2013年12月1日より施行されており、雇用契約の締結義務やその契約内容について規定している。
同法では、全ての会社に雇用後30日以内に雇用契約を締結することを求めており、その写しを管轄する各地域の労働事務所に提出しなければならない。ミャンマー語で記載されたテンプレートも公表されている為、そちらを活用するのが楽だろう。
雇用契約書に記載が必要となる事項
- 職種、
- 試用期間、
- 給与、
- 勤務地、
- 契約期間、
- 労働時間、
- 休暇及び休日、
- 時間外労働、
- 勤務中の食事の手配、
- 住宅施設、
- 医療手当、
- 仕事及び出張における車の手配、
- 労働者が遵守すべき規則、
- 研修参加後に継続して勤務しなければならない期間、
- 退職及び解雇、
- 期間満了時の対応、
- 契約において規定されている遵守すべき義務、
- 合意退職、
- その他、
- 契約書の規定の修正及び追記の方法、
- 雑則
<休暇の取扱い>
休暇及び休日法(The Leave and Holidays Act, 1951)において、使用者は最低週に1日は有給にて休みを労働者に与えなければならないことが定められている。
仮に、休日および祝日に出勤させる場合には、日額賃金の200%の支払いを行わないとならないこととされている。
その他、休暇には、有給休暇、臨時休暇、医療休暇、産休の 4 種類が規定されている。それぞれ以下のとおりの取扱いとなる。
Earned Leave (年次有給休暇)
12カ月以上継続して勤務した労働者は年間10日間の有給休暇が与えられる。
但し、1か月のうち勤務日が20日に満たない月があった場合には、その月数毎に有給休暇は1日ずつ少なくすることと定められている。
なお、未消化の有給休暇については、最大で3年間の繰越しを行うことも可能。
Casual Leave (臨時休暇)
全ての労働者は年間6日間の臨時休暇が与えられる。勤務期間の定めは無いため、使用期間開始当初から付与される。
但し、1度に取得出来るのは最長3日間までとなっており、他の休暇と併用することは出来ないものとされている。
なお、未消化の臨時休暇については、翌年以降に繰り越すことは出来ない。
Medical Leave (医療休暇)
6か月以上勤務した労働者は、年間30日間を超えない範囲で医師の診断書に基づき医療休暇を得ることが出来る。
但し最初の3日間について、給与は半額の支払いとなる。
未消化の医療休暇については、翌年以降に繰り返すことは出来ない。
Maternity Leave (産休)
妊婦は産前6週間、産後8週間について、有給での休暇が認められている。
<社会保障>
社会保障法(The Social Security Law, 2012)は、非営利組織や国際機関等を除く、従業員5名以上を採用する全ての企業に対して社会保障制度への加入を義務付けている。
従業員数が少ない企業でも、任意に加入することは可能である。
社会保障料
社会保障に伴う企業及び従業員の負担は、月額給与に基づき以下のとおり定められている。
企業は毎月の給与支払いの際に、従業員負担分を給与から控除して、企業負担分と共に社会保険事務所に対して支払うことになる。
但し、月給30万チャットの額を上限としている。
医療基金 :使用者2%、労働者2% ※但し労働者の年齢が60歳超の場合は、それぞれ2.5%へ増額
労災保険 :使用者1%
上記の他、2018年6月現在施行はされていないものの、障害給付・老齢年金・遺族給付基金、失業給付基金、社会保障住宅基金の3つが存在する。
<従業員の解雇>
解雇については、雇用契約書に定めている範囲において認められ得る。
契約期間満了前に契約を終了させる場合は、企業は一定額の保障を従業員に対して支払うことが求められている。
労働省の告示(Notification 84/2015)によれば、勤続期間に応じた解雇手当は以下のとおりとされている。
勤務期間 | 補償金 |
6ヶ月~1年 | 月収の半月分 |
1年~2年 | 月収の1か月分 |
2年~3年 | 月収の1.5か月分 |
3年~4年 | 月収の3か月分 |
4年~6年 | 月収の4か月分 |
6年~8年 | 月収の5か月分 |
8年~10年 | 月収の6か月分 |
10年~20年 | 月収の8か月分 |
20年~25年 | 月収の10か月分 |
25年以上 | 月収の13か月分 |
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