ミャンマー資本市場創設メンバーが語るミャンマー経済・投資の実際

ミャンマー進出・投資のポイントを本気で解説(第2回:参入市場の構造を理解。市場エコシステムの中でのポジショニングとは)

ミャンマーへの進出・投資を検討する際のポイントを徹底解説。

第2回となる今回は、新たな市場に進出するにあたって求められる「市場エコシステムの理解」について取り上げていく。

前回の記事では、数ある海外市場の中で何故ミャンマーを選ぶのか、というマクロの視点であったが、今回は現地の市場構造の中で果たして自社が適合し得るのか否かというミクロの視点に迫りたい。 ミャンマーに限らず、特に新興国への進出においては当てはまる部分が多くあるかもしれない。

<そこに本当に需要はあるのか>

第1回の「ミャンマー市場の特徴」でも言及した通り、ミャンマーは依然手付かずの白紙の事業領域が多い。このような環境に初めて接した日系企業の中には、「何も無い」ことに進出の魅力を感じる場合が多い

何かが「無い」という状況において本来考える第一の疑問は、(1)そもそも「必要(需要)が無い」のか、(2)需要はあるが何かしらの制約により「供給が出来ない」のか、或いは(3)需要はあるがこれまで単に「参入(トライ)しようとする者がいなかった」のか、であろう。

感覚値にはなるが、現実的に最も多いのは(2)のケースである。次に(1)、おそらく最も少ないケースが(3)だと思われる。

しかし、ミャンマーにビジネス視察で訪れる人の中には希望的観測からか(3)のケースだとの先入観を抱くケースは驚くほど多い。いくらミャンマーとは言え、既に多くの外国人はおり、海外から帰国してきたミャンマー人も多く、誰も全く考えてこなかった事業というのは現実には稀有だ。そこまで甘くはない。

上記の3つの可能性を検証する際に、順番としてはまず(1)について疑うことになるだろう。すなわち、現地社会においてそもそも需要があるのか否か当社でもこれまで日系企業からの市場調査の依頼を数多く受けてきたが、実際には調査結果に対する判断は難しい場合が多い。もちろん顕在化された需要(マーケット)や類似商品・サービスがあるか否か、については調査で明確な結果が出ようが、まだ現地の人が味わったことが無い商品・サービスである場合、潜在的な需要を把握するのは現実的にはかなり難易度が高いからだ。

ここで思い出すのは、裸足の国で靴を売るという逸話だろう。アフリカに派遣された二人のセールスマンのうち、一人はみんな裸足であるのを見てニーズが無いと判断し、もう一人は裸足であるから大量のニーズがあると捉えたという話だ。

あくまでも話を分かりやすくする為の「例」ではあるが、ミャンマーでは麺を食べる文化はあるものの、ミャンマー人向けの「蕎麦屋」というのは無い(うどん屋もおそらく無い)。例えば、街角で蕎麦の試食会をすれば、現地の人の需要は見て取れて、或いはおいしいとの反応を示す人は多いかもしれない。ただ、実際には蕎麦を日常的に食べる習慣が無い中で、果たして本当に店を出すという判断に至れるか否かは怪しい。要は、現地の社会慣習の中に根付かすことが出来るか否か、であって我々日本人が持つ蕎麦屋が街の至るところにあるという常識を当て込むと間違う可能性がある。

次に考えるのは、(2)のケースでこれが決定的に重要になる。要は、これまで参入しようとしたプレイヤーはいるが、「何らかの要因」によって成し遂げられなかったという事業領域だ。この「何らかの要因」を解き明かすこと、また、それに対する解決策(ソリューション)を打ち出すことが出来るか否かが、市場参入の検討において要となる部分である。「何らかの要因」とは、例えば、多額の先行投資(資本集約的なビジネス)であったり、許認可上の理由であったり、或いは市場のエコシステムに溶け込むことの難しさ、であったりする場合がある。

以上を踏まえ、需要があることが確認でき、また何ら制約要因も無い場合は、初めて(3)のケースと見做しても良いかもしれない。だが、おそらくそれは極めて稀なケースだろう。

<市場エコシステムへの理解は決定的に重要>

日本での新規事業においても当然当てはまることではあるが、新たな商品・サービスの投入にあたって、その商品・サービス自体の優位性、或いはその売り出し方(マーケティング)は極めて重要だ。「無ければ売れる」、「安ければ売れる」、「品質が良ければ売れる」、などという単純な話では当然無い。実際のビジネスの現場では、それらに加えて、提供する組織体制であったり、ITの活用度(ミャンマーでも携帯普及率は既に100%を超えておりICTリテラシーは上がりつつある)等の複合的な要素が入り混じるだろう。

しかしそうした検討要素の中でも、海外市場、特にミャンマーのように市場の構造実態が捉えづらいマーケットにおいて重要となるのは、市場エコシステムへの理解だと思われる。この観点は、新たに市場参入を果たそうとする企業のほとんどが不足している視点であるため、ここで敢えて説明をしていきたい。

例えば、日本の中で、飲料とは関係の無い企業が偶然にもこれまで無かった美味しい「お茶」を開発したと仮定しよう。我々は、そのお茶を大量販売していくにあたって、水の源泉、お茶葉の供給者を特定するに加えて、どのようなメディア(広告会社)を使ったマーケティングをするか、或いは最終販売先として、コンビニやスーパー、飲食店や自動販売機などを思い浮かべるだろう。通常、日本のビジネス社会に生きていれば、コンビニやスーパーの業界構造、即ちどのようなグループの系列(親密な関係)にあるかを知っている場合が多い。そうしたグループの系列が、既にある他のお茶メーカーとどのような関係にあるかも調べることは容易いだろう。 どこかの総合商社が、お茶のバリューチェーンに注力しようとしているという情報も得られるかもしれない。通常我々は自分たちの母国であればそうした複合的な前提情報を持って、販売戦略の全体像を練り上げていくわけだ。

ただ、これが海外に一歩出ると全く違ってくる場合が何故か多い。シンプルに「おいしいから売れるはず」となってしまう場合が多い。そしてその先入観から抜けられず、思考停止に陥ってしまう。実際には、日本のみならず、あらゆる国、当然ミャンマーにおいてもその市場の中で既に形成された市場構造があることに考えが至らない。誠に不思議な現象だと思う。

ここで、ハーバード・ビジネス・スクールのマイケル・ポーター教授の名著「競争の戦略」に挙げられている5 Forcesを思い出して頂きたい。要は、競争要因となるのは、1.売り手の交渉力、2.買い手の交渉力、3.新規参入者の脅威、4.代替品・サービスの脅威、5.既存企業との競争、の5つの力(Forces)という話だ。先に挙げた系列グループの話から敷衍すると、これら5つの力は必ずしもそれぞれが単独で動いているわけでは無く、時に密接に結びついている関係にあることを忘れてはいけない。

ミャンマーの中では軍事政権時代より形成されてきた財閥が多く存在する。そうした財閥は、政商(クローニー)と呼ばれ、戦前・戦中の日本でも見られた特別なビジネスグループである。ほぼ半世紀に亘って続いたミャンマーの軍事政権は、政商を通じてビジネス界を動かしてきたわけであって、政治とビジネスの関係が、民政移管(2011年)によって綺麗にスパッと切れるなどという考えを持つ方が逆に不自然だろう。

※ ミャンマーの財閥構造については、こちらをご参照

財閥は様々な事業領域を持ち、それぞれの財閥が時に協力関係を築き、時に競争関係を持ち、市場を形成している。そうした中に、「おいしいお茶出来ましたー」というトーンで入り込むことがどういうことがよくよく想像してみて頂きたい。「虎(トラ)だったら勝てる」、というのは我々の常識であって、そのマーケットでは、「シマウマとライオンが仲良し」かもしれないのだ。

特に、外資として市場参入する上では、自社の事業への外資規制だけでなく、そのサプライチェーンにある事業の規制、或いは許認可についても認識しておくことが重要だ。仮に、供給サイド(サプライヤー)が特定の企業によって独占されており現実的な新規参入が困難な場合、若しくはサプライヤー同士の関係性が近く談合が生じ得て、供給の安定化が困難なケースなども想定しておくべきだろう。サプライチェーンが長い場合、単に自社の直接の取引先だけでなく、その先の関係まで追うことも必要かもしれない。

「エコシステム」という表現を使うのは、「自社がそこにいることの必然性」という観点に思いを馳せて頂きたいからだ。長期的に、その市場の中で生きながらえさせてもらう為には、そのエコシステムに溶け込む必要がある。仮に、シマウマとライオンがタッグを組んでいたとしても、 その中に混ぜてもらえるポジショニングを取る必要がある。そうで無ければ、短期的には成功し得ても、長期的には市場から排除されるだろう。私自身の経験でもこれまで「強ければ勝てる」という発想で失敗してきたことがある。

新興国への進出に際しては、「現地ニーズに即した商品開発」、また特に日系企業にとっては「現地市場に応じた価格設計」が重要と言われる。もちろん、これは正しいことであるが、それと同じぐらいに現地の市場エコシステムを理解しておくことは海外市場攻略のために肝要なのだ。

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