ミャンマー資本市場創設メンバーが語るミャンマー経済・投資の実際

ミャンマー情勢の最新情報 Vol.26(クーデター発生から2か月。欧米による制裁と悪化する経済環境。猫を噛む鼠の末路とは)

(ご案内)

※ 本記事は、2021年4月1日(木)ミャンマー時間15時半に執筆しています。

※ クーデター発生日よりClubhouseにて音声での情報発信を行っています(@myanshin)。ミャンマーの今を知って頂きたいという「信念」に基づいてお届けしています。本ブログと共にお聴き頂ければ、ミャンマー情勢は概ね把握可能なように努めております。また、クーデター後のミャンマーの日常を企画・編集ゼロでYoutube配信し始めました。こちらからご覧下さい。

※ 企業向けの情勢分析レポートも別途賜ります。また取材につきましても E-mailにてご連絡頂ければと存じます(info@tvpmyanmar.com) 。

※ 発生日からの時系列、2月1日(月)2月2日(火)2月3日(水)2月4日(木)2月5日(金)2月8日(月)2月9日(火)2月10日(水)2月11日(木)2月12日(金)2月14日(日)2月16日(火)2月17日(水)2月19日(金)2月21日(日)2月22日(月)2月23日(火)2月25日(木)2月28日(日)3月4日(木)3月7日(日)3月10日(水)3月14日(日)3月18日(木)3月23日(火)の記事も合わせてご覧ください。

Trust Venture Partnersでは混迷を深める現地情勢を受けて、日緬間の送金・現地法人の内部監査対応・休眠化及び休眠時対応・退避/ビザ・その他緊急時対応等、様々なご相談を頂いております。 また、現地の情勢分析を踏まえた今後の方針・シナリオ設計、合弁解消、資産売却、事業撤退手続き等も含め、現地の日本人及びミャンマースタッフにより幅広いご支援が可能です。 ご不明な点等ございましたら是非お気軽にご連絡頂ければと存じます(info@tvpmyanmar.com)。

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(以下、本文)

軍事クーデター発生(2月1日)から早くも2か月が経過。

本日4月1日未明(深夜2時頃)にはクーデター後2か月を意識して、何者かがヤンゴンにある国軍関連施設(ルビーマート及びガンダマホールセール)を襲撃・放火。物理的な対立は明らかに高まっている。 国軍側は一方的な停戦申し入れにかかる期間を4月末まで1か月間延長するとの声明を出しているが、その真偽は甚だ怪しい。

クーデター勃発直後に見られた一部の楽観論、短期収束見通し等を耳にすることはもはや無い。国軍と国民との亀裂はこの2か月間で修復不能なまでに広がり、双方が退路を断ち切った徹底抗戦の姿勢を強めている。

国軍側の弾圧による死者数は、3月末時点で536名。3月27日の国軍記念日には一日で少なくとも90名以上の尊い命が犠牲となった(出所:政治犯支援協会(AAPP : Assistance Association for Political Prisoners))。

米国による相次ぐ経済制裁の発動をはじめ国際社会による包囲網が強まる中、ミャンマー国軍は全く意に介さない姿勢を貫いている。国際社会における孤立化は一定程度「想定の範囲内」という側面も見られ、現実的な脅威とは映ってない可能性が高いかもしれない。

一方、多くの国民、或いは国民の多数が支持する連邦議会代表委員会(CRPH : Committee Representing Pyidaungsu Hluttaw)は、平和的なデモ抗議活動から始まり、国軍関連ビジネスへの不買運動や納税拒否を通じた軍政への経済的圧力強化、あらゆる業種に跨る不服従運動(CDM : Civil Disobedience Movements)国際世論に対する働きかけ、また足元では少数民族武装勢力(EAOs : Ethnic Armed Organizations)との連携による連邦軍の組成等の矢継ぎ早の施策を打ち出してきているものの、国軍に対する致命打とは依然なりえていない。今後の注目は本当に独自通貨発行に向けた動きを進めるかにあるだろう

各種メディアを通じて、国軍による残忍な武力行使やミャンマーを取り巻く国際情勢の変遷ばかりに目が行きがちではあるが、今後最も深刻化するのは隣国に逃れる難民問題、或いは国内避難民(IDP : Internally Displaced People)を含む経済的に困窮する世帯の急増だ。

ミャンマーは東南アジアで最も貧困率が高いとされる。2017年に世界銀行とUNDPが行った「ミャンマー生活状況調査(Myanmar Living Conditions Survey)」では貧困ライン(1日当たり1,590Kyats)を下回る比率は24.8%。国民の実に4人に1人、すなわち13百万人程度が生活に困窮しているわけだ。当然これは今回の軍事クーデター発生前の数値であり、現時点で既に大幅に悪化しているであろうことは想像に難くない。軍政時代の2005年に行われた同調査では貧困比率は48.2%であり、今後の情勢如何で数百万人規模の貧困層が生じる可能性は十分あり得る。民主化を取り戻す活動への支援も重要だが、今日食べる物が無い人たちへの支援が求められるべきだと強く感じる。

※ 同調査レポートの全文はこちら

※ 下の表の左側は「各地域の一人当たり消費日額」、右側は「各地域の貧困ラインを下回る人の割合」特に地方部において貧困問題はより深刻

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<米国・英国による追加経済制裁の発動>

米国と英国は歩調を揃えて3月25日(木)、国軍関連企業の中心的存在であるミャンマーエコノミックホールディングス(MEHL : Myanmar Economic Holdings Limited)への経済制裁を発動。また、同日の米国による制裁対象には、同じく国軍系の中心的財閥であるミャンマーエコノミックコーポレーション(MEC : Myanmar Economic Corporation)も含まれている 。

※ 米国の今回の制裁にかかる声明文はこちら

※ 英国の最新の制裁リストはこちら

同2社は傘下に様々な業種(金融、天然資源、通信、酒、たばこ等)に跨る企業群を有しており、軍政時代より利権構造を元にした収益獲得を通じて国軍への資金源として活用されてきた。これまでの各国の制裁では、同国経済への影響を鑑みて同2社への制裁は踏みとどまってきていた。その意味では今回、米英が一致して本丸に手を付けたと理解できる。

また、米国については更に追い打ちをかけるように通商代表部(USTR : United States Trade Representative)が3月29日、第7弾となる経済制裁として2013年に締結していた「貿易・投資枠組み協定(TIFA : Trade and Investment Framework Agreement)」を即日停止することを発表。今後、両国間における直接的な交渉の場は閉ざされる。

また、USTRは特恵関税(GSP : Generalized System of Preferences)の停止にも言及。欧州連合(EU)のGSP(特にミャンマー縫製業は5割がEU向け)ほどのインパクト程は無いにしても、米国による停止判断がEUの判断にも影響を与える可能性はありえるだろう。

ミャンマーに対する米国のGSPにかかるこれまでの経緯としては、1988年の民主化運動を受けて1989年に停止。NLD政権の発足後、ミャンマー政府による労働者保護の動きが確認されたことから2016年11月に再開していた。GSPは一度停止されれば、ミャンマーの民主化が実現されるまで再開は期待薄だろう。その期間が長期に亘れば、所得・雇用の減少により生活困窮者の急増は火を見るよりも明らかだ。

※ USTRによる声明文はこちら

ちなみにミャンマーと米国間の貿易関係についてここで簡単に触れておく。

ミャンマーにとって米国は、中国、タイ、日本に次ぐ4番目の輸出先に位置(FY18-19)。革製品や縫製関連の物資が大部分を占める。米国にとってミャンマーは世界71番目の輸入先(調達先)にあたる。

一方、ミャンマーの輸入面では両国の貿易関係はより小さく、米国の輸出額は年間338百万ドル(2020年)に過ぎず(米国にとっての輸出先で世界100番目)、マクロ的には影響は軽微と言える。米国はミャンマー向けに689百万ドル(2020年) の貿易赤字(Trade Deficit)があるが、年間6千億ドル超の貿易赤字を抱える米国にとってその影響は0.1%程度に過ぎない。

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(米国によるこれまでの経済制裁のまとめ)

2月11日の第一弾発表以降、これまで米国は7回に亘って経済制裁を発動してきた。米国内資産の凍結や両国の貿易関係への影響は必至であるが、ミャンマー国軍への決定打とは依然なり得ていないのが実情だろう。

第1弾 : ミンアウンライン国軍司令官を含む10個人、国軍系企業3社を米財務省SDNリストへ(2月11日) 

第2弾 : 国家統治評議会(SAC)メンバー2名を米財務省SDNリストへ(2月22日)

第3弾 : 商務省による2省庁及び2企業に対する輸出制限(3月4日)

第4弾 : ミンアウンライン国軍司令官の子ども2名及びその関連企業6社を米財務省SDNリストへ(3月10日)

第5弾 : 警察庁長官等個人2名及び2つの軽歩兵部隊(LID : Light Infantry Division)を米財務省SDNリストへ(3月22日)

第6弾 : 国軍系財閥MEHLとMECを米財務省SDNリストへ(3月25日)

第7弾 : 通商代表部(USTR)によるTIFA停止(3月29日)

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<経済へのインパクトが徐々に鮮明化>

主要国の制裁に加えて、外国投資の急減及び経済支援の停止によるミャンマー経済へのインパクトは今後じわりじわりと効いてくるはずだ。

3月26日、世界銀行は2021年(2020年10月~2021年9月)のミャンマーGDP成長率がマイナス10%になるとの見通しを公表。近年6-7%程度の成長率を持続してきたものの、コロナの感染拡大を受けて大きく低迷。昨年12月の公表時点では2%成長まで引き下げていた。今般のクーデターを受けて、人・物・金の移動が大きく制限される中、大幅な引き下げに踏み切った。

ミャンマーのGDPは約760億米ドル(世銀:2019年)。クーデター前の4か月(10月から1月)は大きな影響を与えていないことから、残りの8か月だけでおよそ76億米ドル(8千億円超)の付加価値が吹き飛ぶことになる。国民生活に与える影響は甚大だ

また4月1日に公表されたIHSマーキット(IHS Markit)による3月のPMI(製造業購買担当者景気指数)は27.5となり2月と同水準。極めて低く推移している。

PMIのイメージが付きづらいかもしれないが、比較としてリーマンショック後の日本の製造業PMIは30程度まで落ち込んだことがあった。ただ昨年のコロナの緊急事態宣言下にあっても40を多少下回る程度に踏みとどまっている。クーデター後のミャンマーにおける経済停滞は他に例を見ないレベルの落ち込みと言って良いだろう。

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<国際社会の動向>

3月31日、国連の安全保障理事会(United Nations Security Council)は、英国の呼び掛けにより非公開の緊急会合(15か国)を開催。国連としての制裁を持ち出す方針の欧米に対して、ロシア・中国は反対の立場を貫き、議論は平行線を辿っているものと見られる。

国連のミャンマー担当特使(Special Envoy)であるブルゲナー氏( Christine Schraner Burgener)は「あらゆる手段を検討し、一致した正しい行動( Consider all available tools to take collective action and do what is right )」をとることを呼びかけた。

ブルゲナー氏の呼び掛けに応じないのは、中国・ロシアに留まらない。現在、国連安保理の非常任理事国には、インド・ベトナムが入っている。両国ともにミャンマーへの制裁には反対の立場と見られている

ここで3月27日の国軍記念日において、首都ネピドーで行われたパレードへの出席国を思い返したい。計8か国、ロシア、中国、インド、ベトナム、パキスタン、バングラデッシュ、ラオス、タイであったわけだ。実際、3月23日に行われた国軍側の記者会見で、ゾーミントゥン准将(Brigadier General Zaw Min Tun)は、5つの隣国と協働関係にあることにも言及している。

一方、欧米社会との溝が深まるロシア・中国もミャンマー情勢を好ましいと捉えているとは考えづらい。3月23日(火)に開かれた中国の王毅外相(Wang Yi)とロシアのセルゲイ外相( Sergei Lavrov)との会合では、ミャンマー情勢について深い懸念(Deep Concern)が確認されており、これ以上の衝突や流血を防ぐことが議論された。むろん両国の態度は人道的な配慮とは捉えがたい。国際社会における視線が厳しさを増す中、非難の的が自国に向かうことを避けたい意図が透けている。

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<その他のアップデート>

(不服従運動をノーベル平和賞候補にノミネート)

ノルウェーのオスロ大学(University of Oslo)の教授6名は、ミャンマー各地で広がる市民の不服従運動(CDM : Civil Disobedience Movements)をノーベル平和賞候補(Nobel Peace Prize)へ推薦。昨年は、国連の世界食糧計画(World Food Program)が受賞したことは記憶に新しいが、2017年にも核兵器廃絶キャンペーン(International Campaign to Abolish Nuclear Weapons)が受賞しており、近年は特定個人では無く、平和に結びつく活動自体に対する受賞の傾向が目立ち、CDMがその流れに乗れるか否かに注目が集まる

本年の発表は10月8日に予定(例年発表は10月頃。アウンサンスーチー氏の受賞は1991年10月)であるが候補受付は1月末で終了。従って、今回の推薦が仮に通ったとしても実際の受賞は2022年10月となる。その頃には事態が収束されていることを願いたい。

(CRPHによる民主憲章が公表)

連邦議会代表委員会(CRPH : Committee Representing Pyidaungsu Hluttaw)は3月5日に現行憲法の廃止と新憲法の起草の方針を示していたが、3月31日、新憲法制定に向けた連邦民主憲章(Federal Democracy Charter)を採択。同憲章は、新憲法の骨格を成すものとなり、今後少数民族との合意形成による連邦制の導入に向けた議論が加速することが予想される。

現行憲法の廃止を明確化させたことから、国軍側が主張する「現行憲法に基づく再選挙の実施」は遠のいたと言えるかもしれない。

※ CRPHによるこれまでの重要な声明はこちら

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(戒厳令に基づく軍法会議での初の判決)

ヤンゴン北西に位置するラインタヤ群区(Hlaingthaya Township)で起こった3月14日の悲劇(デモ隊側による中国系工場等に対する放火とそれを鎮圧する国軍の衝突)は、その後の国軍による残虐さに結びついていった。中国からの圧力も受けて国軍は速やかにヤンゴン6群区での戒厳令を発動。同エリアでは通常の裁判手続きを経ることなく、軍法会議において判決が下ることとなった。

戒厳令発動後初となる軍法会議が3月25日開催。訴追された約10人に対する判決が言い渡され、放火に関わったとされる2人には懲役20年が科された。軍法会議においては上訴は認められない。 今後も同様の見せしめ的軍法会議が相次ぐことが懸念される。

(米国が政府職員の退避を命令)

3月30日、米国の国務省(Department of State)はミャンマーに留まる自国民政府職員及びその家族に出国命令を発動。

米国は、2月14日に渡航情報(Travel Advisory)を最も高いLevel4(Do Not Travel)に引き上げており、自主的な退避(Voluntary Departure)を呼びかけていた。3月27日の国軍記念日後、更に悪化する現地治安情勢等を踏まえ、今回「退避命令(Ordered Departure)」に切り替えた。今回の背景としては、3月27日に米国大使館の近くに位置するアメリカンセンターへ何者かによって銃弾が撃ち込まれた事案が関連していると見られている。

※ 国務省によるミャンマー渡航情報はこちら

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