ミャンマー資本市場創設メンバーが語るミャンマー経済・投資の実際

ミャンマー情勢の最新情報 Vol.23(内戦激化という最悪のマグニチュード)

※ 本記事は、2021年3月13日(土)ミャンマー時間15時半に執筆しています。

※ クーデター発生日よりClubhouseにて音声での情報発信を行っています(@myanshin)。ミャンマーの今を知って頂きたいという「信念」に基づいてお届けしています。

※ 企業向けに情勢分析レポートも別途承ります(info@tvpmyanmar.com)。現地ビジネス展開にかかる方針・シナリオ設計、合弁解消、資産売却、事業撤退手続き等幅広くご支援が可能です。

※ 発生日からの時系列、2月1日(月)2月2日(火)2月3日(水)2月4日(木)2月5日(金)2月8日(月)2月9日(火)2月10日(水)2月11日(木)2月12日(金)2月14日(日)2月16日(火)2月17日(水)2月19日(金)2月21日(日)2月22日(月)2月23日(火)2月25日(木)2月28日(日)3月4日(木)3月7日(日)3月10日(水)の記事も合わせてご覧ください。

ライザップイングリッシュ

(以下、本文)

昨晩はヤンゴン市内各所で大規模なデモが広がった。

夜間外出禁止令(夜8時~朝4時)が敷かれる中、敢えて夜8時からの集会活動が呼びかけられ、犠牲者を追悼。国連の報告では、クーデター後の弾圧でこれまでの死者は70名に達している。ヤンゴン都市部での深夜の銃声音にも些かの慣れが生じつつある。

当地の日本人の中にも帰国を決断する人が急増。次回3月19日のヤンゴン-成田の直行便は当初予定の60名から190名枠に変更されたが、チケットは瞬間蒸発。この国の発展に賭けてきた人たちがこの地を去ることには、寂しさを超えた感情が湧き上がる

インプラント

<米国による経済制裁第4弾>

今般のクーデター後、米国は2月11日(個人10名及び企業3社)2月18日(個人2名)3月4日(商務省による2省庁及び2企業に対する輸出制限)と経済制裁を小出しにしてきたが、3月10日(水)の第4弾もまたしてもマイナーな追加となった。強いトーンで非難している割には、今のところ制裁には強い積極性は見られない。

3月10日、米財務省(Department of the Treasury)の外国資産管理室(OFAC : Office of Foreign Assets Control) は、ミンアウンライン(Min Aung Hlaing)国軍司令官(本人は制裁指定済み)の子ども2名(Aung Pyae SoneとKhin Thiri Thet Mon)及び当該2名が関与する6企業(A & M Mahar Company Limited, Sky One Construction Company Limited, The Yangon Restaurant, The Yangon Gallery, Everfit Company Limited, Seventh Sense Company Limited)を制裁対象とした。背景としては、国軍司令官の立場を利用して、当該2名が特に有利な条件でビジネスを展開していることを挙げている。

現状では、米国の制裁は国軍の中心的人物及び一部の法人に限定されており、国軍系の企業に対する幅広い制裁がどのタイミングで生じ得るのかに注目が集まっている。

※ 米財務省による公表文は、こちら

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<国連による議長声明が採択>

3月5日に開催された国連安全保障理事会(United Nations Security Council)を受けて、その後、開催を呼びかけた英国をはじめ主要国の中で議長声明採択に向けた水面下の調整がなされてきた。

3月10日(水)に公表された議長声明(Presidential Statement)では、国軍による暴力行使を「強く非難する(”strongly condemn”)」との表現が記載。当初英国が提案していた原文には「クーデター」という表現、また「更なる状況悪化が生じれば、国連憲章の下で可能な範囲の措置を検討する」との警告が盛り込まれていたが、中国・ロシアが難色を示す中、妥協の色が滲み出る声明文となった。

国際社会による包囲網強化という面では一定の評価はなされようが、ミャンマー国軍に対する具体的なプレッシャーという意味ではどの程度の効果を持つかは依然不透明だろう。

(※ 議長声明の公式文書はこちら

ライザップイングリッシュ

<アウンサンスーチー国家顧問に対する追訴の可能性>

3月11日(木)に行われた国軍側の記者会見では、アウンサンスーチー国家顧問に対する汚職の捜査が進められていることが明らかになった。

これまで同女史に対しては、2月3日に一つ目の罪状、「無線機の違法輸入(Export and Import Law第8条 )」の罪(最大で禁固3年)、2月16日に二つ目の罪状、コロナ対策を怠ったとする「自然災害管理法違反(Natural Disaster Management Law第25条)」の罪(最大で禁固3年)、3月1日に三つ目の罪状、連邦議会代表委員会(CRPH)による声明が社会を混乱 (”public tranquility”)させたとして刑法(Penal Code)505条(b)違反(最大で禁固1年)、同3月1日に四つ目の罪状、無線機を無許可で「使用した」として電気通信法(Telecommunications Law )違反(最大で禁固1年)、と計4つの言い掛かりが突きつけられてきた

今回の疑惑では、アウンサンスーチー国家顧問がヤンゴン管区首相(Chief Minister of Yangon Region)であったピョーミンテイン(Phyo Min Thein)氏から2017年12月から2018年3月の期間に60万米ドル及び21ポンドの金塊を受け取ったとするもの

今回の疑惑がこれまでの訴追と異なるポイントとしては2点。

1点目は汚職にかかる罪は最大で15年と長く、これまでの罪状(最大禁固3年)と比較して圧倒的に重い。国軍側はおそらく初めからこれを狙っていたものと推察される。3月15日に行われる予定の裁判所の2回目の審理に向けて、この罪状を決定打にする可能性があるだろう。

2点目は今回金品を渡したことを自供したとされる人物がピョーミンテイン(Phyo Min Thein)氏である点。同氏はNLD政権下においてヤンゴン管区首相を務め、当初その評判は高かった。アウンサンスーチー国家顧問(75歳)をはじめ高齢化が進むNLD幹部の中で、同氏は51歳(1969年生まれ)と若く、NLDの次期リーダーと目されていた時期もあったほどだ。ヤンゴンのバス運営(YBS : Yangon Bus Service)の抜本的見直しに際して、中国からのバス購入にかかる不透明さが指摘されたことにより人気は低下、2021年3月に退任することが決まっていた。しかしながら、同氏は少なくともアウンサンスーチー国家顧問の信認が厚かったことは想像に難くない

ピョーミンテインも他の管区首相と同様に2月1日時点で国軍に拘束され、その後、尋問が継続していると見られる。同氏が自供したという事実自体が怪しいが、仮に自供が事実であったとしても相当な拷問の中での誘導尋問と考えられ、事実と認めるに足る環境とは到底言えないだろう。

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<少数民族武装勢力の動向>

ここもとの情勢判断の中で、個人的に最も注目を払っているのは少数民族武装勢力(EAOs : Ethnic Armed Organizations)の動向だ。

既に過去のブログ記事にも掲載している通り、カイン州のカレン民族同盟(KNU : Karen National Union)及びその軍事部門としてのカレン民族解放軍(KNLA : Karen National Liberation Army)が国軍に対する反抗の姿勢を示しているが、その勢力は限定的であるのが実態だ。

今後の注目は北方同盟(Northern Alliance)、特にその中で中心的な位置付けにあるKIA(Kachin Independent Army)の動向だろう。

(北方同盟(Northern Alliance)を構成する4組織と対象地域)

カチン独立軍(KIA : Kachin Independence Army) ※本部:カチン州ライザ

タアン民族解放軍(TNLA : Ta’ang National Liberation Army) ※本部:シャン州パラウン自治区

ミャンマー民族民主同盟軍(MNDAA : Myanmar National Democratic Alliance Army) ※本部:シャン州コーカン地区

アラカン軍(AA : Arakan Army) ※本部:カチン州ライザ

(KIAによる国軍への攻勢が開始)

3月12日(金)、KIAがカチン州モガウン(Mogaung)群区にある国軍施設を攻撃。KIAとしては、これまで市民による不服従運動(CDM : Civil Disobedience Movements)を支持する方針は示してきたが、公式に国軍への攻撃にかかる指令は出していない模様であるため、今回の軍事行動がどのような指揮系統・意図に基づくものかは不明。

3月11日(木)に同じく北方同盟に参加しているアラカン軍(AA : Arakan Army)に対して、国軍が「テロ組織(Terrorist Organization)」の指定を解除したことは、北方同盟内での内部対立を引き起こす揺さぶりとも読み取れる。

(NLDと北方同盟の関係性)

今般のクーデター発生直前の2021年1月、NLD政権は北方同盟(Northern Alliance)に対して予備的停戦協定(Preliminary Ceasefire Agreement)の草案を送付していた。

NLD政権としては、全土停戦協定(NCA : Nationwide Ceasefire Agreement)に署名していない北方同盟との合意に向けて3つの段階を用意。1段階目では上記の予備的停戦協定(国軍と北方同盟間)の合意。2段階目では、北方同盟に属する4つの武装勢力それぞれとの個別合意。3段階目ではNCAへの合意を目指していた。しかし、少数民族武装勢力側が難色を示す中、クーデター発生までの間に第1段階目の合意すら実現は出来なかったのが実態だ。

(ミャンマー国軍と少数民族武装勢力間の衝突・爆破事件数の推移)

民政移管がなされた2011年3月以降も少数民族武装勢力との衝突はミャンマー各地で相次いできた。その中でも北方同盟に属する4つのEAOsとの衝突回数が特に多いことが下の図でも明らかであろう。

国軍にとっては、北方同盟が本格的な反攻を示してくることに対して強い危機感が生じつつあるものと推察される。

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(連邦政策交渉協議委員会の取り組み)

北方同盟の今後の動向を占う上で、更に広域な提携の枠組みである連邦政策交渉協議委員会(FPNCC : Federal Political Negotiation and Consultative Committee)を理解しておくことが重要だ。

2017年4月に中国が支援するワ州連合軍(UWSA : United Wa State Army)を取り込む意図で結成されたFPNCCは、北方同盟4組織、UWSAの他、シャン州軍(SSA : Shan State Army)、民族民主同盟軍(NDAA : National Democratic Alliance Association)の計7組織によって構成される。

UWSAはミャンマー国内のEAOsの中で最大の勢力を有すると見られており、FPNCC全体での兵力はおよそ3万人程度まで拡充される。国軍に対する反発が強い組織の連合ではありつつ、2018年以降、FPNCCは全土停戦協定(NCA)に向けた政治的協議を開始する意向に舵を切ってきた。ただし、クーデター発生前までの期間において具体的な進捗は見られなかったのが実態だ。

現状、CRPHは連邦制の導入に向けた改憲を旗印に、EAOsの取り込みを進めている模様だ。非暴力・非武装の限界の中で、「目には目を」という方向に傾きつつあるかもしれない。

背景・状況は全く異なるが、2011年3月から始まった中東シリアにおける平和的なデモ抗議活動はその後7月に上級士官が軍を離反し「自由シリア軍」を結成したことが転換地点となった。「国軍 対 国民」から「国軍 対 反政府軍」に発展し、その後の内戦は同国に甚大な被害をもたらした。内戦前のシリアの人口22百万人のうち半数以上が難民化したとさえ言われている。内戦の悲惨さは筆舌に尽くしがたいことを決して忘れてはならないだろう。

ライザップイングリッシュ

<その他のアップデート>

(英国外務省が自国民に退避勧告)

英国の外務及び英連邦開発省(FODC : Foreign, Commonwealth & Development Office)は、3月12日ミャンマー国内にいる自国民に対して退避を呼びかけた(”advises to leave”) 。発表においては、退去することが出来ない場合は自宅待機を(”If you are not able to leave Myanmar at this time, you are advised to stay home and stay safe”)、また、止む無く外出する場合でも可及的速やかに完了させ自宅に戻ること(”If you need to leave home for essential reasons, you should do so quickly, avoiding crowds”)を求めており、英国政府の危機感が伝わってくる。

(ADBの支援が停止)

3月10日(水)、アジア開発銀行(ADB : Asian Development Bank)はミャンマーへの資金拠出及び新規案件の契約を一時停止したと発表。ADBは2013年~2019年までの期間で合計35億米ドルの支援を行ってきており、ミャンマーのインフラ開発等において中心的な役割を担ってきた。

(ADBによる正式文書はこちら

(次回総選挙に比例代表制が導入)

3月11日(木)に行われた国軍による記者会見では、次回総選挙に向けて比例代表制の導入を検討していることが明らかになった。

2015年11月、また直近2020年11月において大敗を喫した国軍と近い連邦発展団結党(USDP)は、現在の小選挙区制における歪みから議席の獲得に難航。比例代表制の導入により死票を少なくすることで議席数の拡大を図る意図が読み取れる。

インプラント

(メディア弾圧が継続)

ミャンマー情報省(MOI : Ministry of Information)は、3月8日(月)付で5つのメディア(Mizzima、DVB、Khit Thit Media、Myanmar Now、7Day )のライセンスをはく奪し、国軍はメディア各社のオフィスを相次いで急襲

しかし、それらの中に有力メディア「イラワジ(”Irrawaddy”)」が入っていなかったことには疑問があった。国軍に対する同社の批判的な報道はとりわけ目についていた。その理由が3月12日明らかとなった。

3月12日、同社は自社のインターネットメディアを通じて刑法505条(a)項に基づき告発されたことを公表。これまで記者個人に対する告発は生じてきたが、メディアの法人に対しては今回が初。

国軍によるメディア弾圧は足元勢いを増している。3月11日にはシャン州タウンジーでポーランド人記者が治安部隊に拘束される事態も生じている(12日ポーランド外務省が確認)。外国人であろうとも容赦なく弾圧する姿勢が強まっている。

(CRPHによる国際弁護士事務所のアサイン)

3月11日(木)、連邦議会代表委員会(CRPH)は、ロンドンに本拠を置くボルテッラ・フィエッタ法律事務所(Volterra Fietta)をアドバイザーに任命。 同事務所では、ロバートボルテッラ(Robert Volterra)弁護士を中心に、 ICJ(International Court of Justice)やICC(International Criminal Court)への告発含め、これまで各国の人権侵害事案を扱ってきた実績を有す。

国際的法定闘争に持ち込むべく準備を進めている模様だ。

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