ミャンマー資本市場創設メンバーが語るミャンマー経済・投資の実際

ミャンマーの軍事クーデターを現地から徹底解説(経済制裁の行方を注視)

※ 本記事は、2021年2月2日(火)ミャンマー時間9:00に執筆しています。

※ 2月1日よりCloubhouseにて音声による情報発信を開始しました(@myanshin)。

軍事クーデター勃発から一夜明けたヤンゴンは、穏やかな朝を迎えている。

昨日は、政権与党である国民民主連盟(NLD)幹部の拘束から始まり、金融機関(銀行・証券取引所等)の休店、テレビ・電話・インターネット回線の遮断、空港の閉鎖、局所的デモの発生、国軍からの声明等、激動の1日であった。

ミャンマーはこの一日で不可逆的な変化が生じ、今後の先行きに対する不安も極限まで高まっている状況ではあるが、一方、新たに明らかになってきた事実も多い。先行きに悲観するだけでなく、現地の状況を冷静に見つめ、今後の見通しに関する私見も含めて解説していきたい。

<再選挙の方向へ>

昨日1日を通じて、最も重要な情報は国軍が選挙をやり直すという決定がなされたことであったと思われる。

2月1日午前11時過ぎ、国軍は軍系テレビ局(MWD:Myawaddy)において、 2008年制定の現行憲法を順守し、 緊急事態宣言(State of Emergency)に基づく自由で公正な総選挙を実施するとの公表を行った。

早朝のクーデター勃発直後に、私の脳裏を過った三つの可能性は、(1)国軍の統制下における2020年11月の総選挙結果の数え直し、(2)総選挙のやり直し、(3)選挙の裏付けとなる現行憲法そのものの廃止、であった。

(1)は、最も短期的な影響で回避され、最良のシナリオとして想定。昨年11月下旬頃より、国軍及び野党系勢力は、総選挙における大規模な不正投票があったとしてその見直しを求めていた。再三にわたる要請にも関わらず、NLD及び選挙管理委員会(UEC)が必要な対応を取らなかったことを背景に今回のクーデターに発展してきた。その意味では、軍が選挙結果を正確に掌握できる環境を作ったうえで、票の数え直しを行うに留まる可能性も考えられた。

(3)は、最も長期的な影響が及ぼされ、最悪のシナリオとして想定。1月27日の国軍司令官ミンアウンライン(Min Aung Hlaing)による発言では、現行憲法の廃止の可能性が示唆されていた。仮に、憲法が廃止となれば、新たな憲法の起草、国民投票の流れが生じ、国際社会を安心させる状況に至るまでの期間が長期にわたる。また、新たな憲法の中で軍が今以上の影響力、すなわち立法府における25%以上の議席、或いは行政府における大臣指名枠の拡充(現在は、内務省、国防省、国境省の3省)という民主化とは逆行する展開が”規定”される可能性があった。

以上を踏まえると、(2)の再選挙という選択はこのような最悪な事態の中ではせめてもの救いであったと個人的には受け止めたわけだ。

<今回のクーデターの憲法上の位置付け>

今回の非常事態宣言に関して、国軍は現行憲法を遵守する立場を強調し、あくまでも憲法417条及び418条の規定に基づく対応だと説明している。

2008年制定の現行憲法では、非常事態宣言(State of Emergency)の発動について、以下の通り定めている(417条)。

【発動要件】:連邦制が崩壊、民族の団結維持が困難、国家の主権を失うような可能性がある事態 ※国軍の論拠は「不正投票による国家主権の危機」

【発動主体】:大統領(国防・治安評議会と協議) ※ミンスエ暫定大統領が発動。評議会は 2月1日に NLDメンバーを除いて開催(評議会の11名のうち、国軍指名の6名の参加により合憲に開催)

【発動の範囲】:ミャンマー全土

【発動の期間】:1年間 ※2021年2月1日より2022年1月31日まで

また、非常事態宣言を受けた対応については、憲法418条に以下の規定がある。

【権限の委譲】:大統領は「国軍司令官」に立法権・行政権・司法権を委譲 ※2月1日をもってミンアウンライン国軍司令官に権限が委譲済み

【宣言の効果】:議会の解散、閣僚等の罷免 ※2月1日付で国会議員は免職、また大臣・副大臣等も全員罷免

今回の経過を合憲とする国軍の説明上、暫定大統領となったミンスエ副大統領が、上記の規定に基づき非常事態宣言を発動しているところが重要だろう。今回の不正投票を「国家主権を不適切な方法で奪取する試み」という根拠のもとでの発動であり、その根拠が事実か否かは別にして、そのロジック自体は一応は理にかなっている。もちろん、大統領の拘束や、ミンスエ副大統領が大統領職を代行する合理的根拠についての説明はなされておらず、合憲だとする説明が通ずるとは到底言えないだろう。

<NLDの反応>

2月1日未明のクーデターを受けて、アウンサンスーチー国家顧問は、Facebook上で「独裁国家に逆戻りさせるクーデターに屈さない」とのメッセージを国民向けに発信。既に首都ネピドーで自宅軟禁かつ外部との通信手段の一切の遮断がなされているようであるが、クーデターの可能性を事前に察知し側近にメッセージを託していた模様だ。

今回拘束されたNLD幹部としては、アウンサンスーチー国家顧問の他、ウィンミン(Win Myint)大統領ゾーミンマウン(Zaw Myint Maung)マンダレー管区首相、すなわちNLDのトップ3に加えて、ピョーミンテイン(Phyo Min Thein)ヤンゴン管区首相アウンモーニョー(Aung Moe Nyo)マグウェー管区首相ミョーテインジー(Myo Thien Gyi)教育大臣、等のNLDの最高幹部が含まれている。また、拘束者数は、1988年の学生民主化運動で元学生リーダーのコーコージー(Ko Ko Gyi)や一部の記者なども含めた少なくとも26名に及んでいる。

今後国際社会は相次いで軍事政権に対する批判と共に、拘束者の早期解放に向けた圧力を強めるはずであり、どのような状況が整えば拘束が解かれることになるかが重要となってくるだろう。

<暫定政権の樹立と再選挙の行方>

2月1日にミンスエが暫定大統領に就任し、非常事態宣言に伴い、既存の閣僚は全て同日罷免された。同日、一部の新閣僚メンバー(11名)が発表され、残りの人選も本日(2日)発表されることが見込まれる。閣僚人事がこれだけのスピード感で出てくることは、同時に本クーデターが周到に準備されてきたことを伺わせる

新閣僚には、旧連邦発展団結党(USDP)政権時代の閣僚の再登用が目立つ。

海軍出身で元財務相(2012年9月~2016年3月)のウィンシェイン(Win Shein)が計画・財務・工業相に、また、同じく国軍出身者で旧外務相(2011年3月~2016年3月)を務めたワナマウンルウィン(Wunna Maung Lwin)が再登板を決めた。いずれも、旧USDP政権における重要閣僚であり、かつラストフロンティアとして呼び名が高まった経済開放政策をけん引してきた人物であり、行政機能の迅速な再開に向けた配慮がなされていることが読み取れる。

<現地の状況>

各国の報道では大混乱の様子が映し出されているが、現地の市民生活においては現時点で大きな影響は生じていないと言える。 昨日は早朝からATMの行列、またスーパーでの米・麺類などの生活必需品を買い溜める動きは見られたが、 昨日午後、市内を巡回した限り、交通量は普段と大差なく人出は若干少ない程度であった。午後三時頃に大規模なデモ発生が噂はされていたが、実際には局所的なものに留まっている。

なお、BBCの報道によれば、航空当局(DCA)はヤンゴンの空港を2月1日から5月末まで閉鎖し、全ての国内線・国際線を運航出来ない状態にする模様だ。

<国際情勢・各国の反応>

バイデン米大統領は、2月1日のクーデターを受けて、ミャンマーへの経済制裁の再発動の可能性を示唆。また、国連のグテレス事務総長もいち早く非難する声明を出している。一方、中国外務省は、中国は「ミャンマーの友好的隣国」とのみ言及し、クーデター及び新たに樹立された軍事政権への批判は避けている。今後、欧米の経済制裁が発動される可能性は高いと見込まれるが、その陰で中国がミャンマーへの影響力の拡大を図ってくる可能性が高く、ミャンマーを取り巻く国際情勢が緊迫化していくことが予想される。

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