ミャンマー資本市場創設メンバーが語るミャンマー経済・投資の実際

ミャンマーの政治構造(次回総選挙で様子見姿勢の投資家が動き出す。選挙システムをわかりやすく解説)

現行憲法化で3回目となる次回総選挙が1年後に迫る。

アウンサンスーチー率いるNLDが歴史的大勝を果たした前回総選挙(2015年11月8日)から4年が過ぎ、今後のミャンマー経済を見通す観点からは、選挙の動向を注視する必要性が高まっている。

次回総選挙の見通しを語る前に、まずは前提情報としてミャンマーの議会と選挙の仕組みを簡単に振り返りたい。

<議会構造>

ミャンマーの議会は二院制で構成されており、上院にあたる「民族代表院」(Amyotha Hluttaw)と、下院の「人民代表院」(Pyithu Hluttaw)の二つ。

位置付けは異なるが、日本で言う参議院が上院の「民族代表院」、衆議院が下院の「人民代表院」と考えれば良い。

日本の改選システムとは異なり、上院・下院共に任期は5年。同日に選挙を行う。前回総選挙が2015年11月である為、これまでの慣習を踏まえれば、次回は2020年11月頃になりそうだ。

憲法上、上院・下院共に25%の議席は軍に自然と割り当てられる。国軍総司令官(国軍のトップ)が任命した軍人が、国民の声とは関係なく、国会の場で発言権を有すことになる。

憲法の改正には、75%超(Super-Majority)の議決が必要(憲法436条)であることから、選挙や国会対策をいくら頑張ったところで、軍の賛同無くして憲法を変えることは出来ない。

従って、国会の場から軍が排除されるためには、軍自ら降りなければ一切の変化は起こらない構造が確立されている。

<選挙システム>

上院の議席数は224名であるが、このうち25%にあたる56名は国軍席、残りの168名が民間から選出されることになる。

ミャンマーは、少数民族が中心に居住する7州(State)と、ビルマ人が中心に居住する7管区(Region)で構成されており、計14の行政区に分かれている。

上院の改選議席168については、この14の行政区から平等に12名が選ばれる(14×12=168)。

ビルマ人が多く住みむヤンゴン管区(735万人)、エーヤワディ管区(617万人)、マンダレー管区(614万人)に比べて、少数民族が中心の人口の少ないチン州(48万人)やカヤー州(29万人)も同じ議席数を有すため、一票の格差が最大20倍超にも達し、基本的には少数民族が有利な構造になっている。これが上院を「民族代表院」と呼ぶ所以だ。

下院については全体の議席数440名のうち、110名が国軍席、残りの330名が改選議席となる。

ミャンマーの行政区は、上記の14の州・管区とは別に、県にあたるDistrictがミャンマー全土で63個と、またその下に群区/タウンシップ(Township)が330ある。

下院の改選議席については小選挙区制で、このタウンシップから1名ずつ選出される。

タウンシップは人口に紐づいている部分が強く、一票の格差は依然存在するとは言え、上院に比べれば公平感は高い。

例えば、ヤンゴン管区は45タウンシップ、マンダレー管区は31に対して、チン州は9、カヤー州は7となっており、この結果人口の7割を占めるビルマ族が有利な構造である。

<大統領の選出>

ミャンマーの政治構造を俯瞰する時、①ビルマ族(国民の約7割)、②少数民族(3割)、③国軍、の3つの関係を理解しておく必要がある。

国軍については前述のとおり憲法上政治への参加が担保されている。ビルマ族と少数民族が選挙においてどのような議席割合を形成するかが極めて重要だ。

この3つのパワーバランスが政治の方向性を水面下でコントロールしていることを理解しておくと良いだろう。

大統領選出のプロセスでこのことが分かりやすく理解できる。

まず大前提として、ミャンマーの大統領は国民による直接選挙では無く、議会によって選出される。

総選挙後に全ての議席が固まると、まずは3名の副大統領を選ぶ。上院から1名、下院から1名、国軍(上院56名+下院110名)から1名。この3名の副大統領から、大統領を連邦議会(上院224名+下院440名)で選出する。

上院の副大統領は、先述のとおり少数民族が有利な構造なので、通常少数民族から選出される可能性が高く、実際過去の例も少数民族から出ている。

下院は、ビルマ族が人口上有利な為(タウンシップベースの為)、ビルマ族から選出される蓋然性が高く、実際にもビルマ族から出ている。

3名の副大統領のうち、大統領に選ばれるのは連邦議会全体の決議となるため、数の原理からいって、下院から選ばれた副大統領(ビルマ人)となるのが通例である。

従って、通常、大統領がビルマ人、副大統領2名が軍人と少数民族でそれぞれ構成されるように出来上がっている。

一点、誤解してはいけないのは、所属政党と民族は必ずしもイコールではないことだ。少数民族出身の議員であっても、ビルマ人を中心とした政党に所属することは決して珍しくは無い。

例えば、現在の大統領と副大統領の所属は以下のようであり、実際には政党ポリシー、出身母体、民族、宗教等、様々な利害が交錯している。

大統領 : ウィンミン(Win Myint)、下院から選出、ビルマ族(エーヤワディ管区出身)、NLD所属、民間出身

副大統領 : ヘンリーヴァンティオ(Henry Van Thio)、上院から選出、チン族(キリスト教徒)、NLD所属、軍出身

副大統領 : ミンスエ(Myint Swe)、軍席から選出、モン族、USDP所属、軍出身

<大統領の権限>

上記の説明で、ビルマ族と少数民族、また国軍がそこに関わった形で統治構造が形成されていることがわかるかと思う。

大統領は所属政党によらず、ビルマ人がなる可能性が高い(国民の7割がビルマ人)わけであるが、次に、その大統領の権限を理解することでミャンマーの統治の難しさと、何故物事が一筋縄で進まないのかを理解できるだろう。

まず、地方議会について触れる。

日本の1.8倍の国土を有するミャンマーは、先に説明した通り14の行政区(State・Region)で構成され、地方分権が一定程度認められている。

地方議会は、先の上院・下院と同じタイミングで総選挙が行われる。各管区(Region)州(State)において、そこの住民が選ぶわけであるから、当然Stateにおいては、そこに住む少数民族から支持された政党が選ばれる蓋然性は高い。

現状では、民族性を通り越してNLDが圧倒的な議席を地方議会においても持ってはいるが、本来は少数民族それぞれの意向を汲み取る政党が地方議会にある構造が想定されている。

問題は、この地方議会の首長(Chief Minister)の選出である。

ミャンマー憲法では、首長は地方議会議員による選挙では無く地方議会議員の中から大統領が指名することになっている(憲法261条)。

政権の閣僚選出の場合は議員縛りは無い為、その点は地方の意向を多少なりとも反映する配慮は見受けられるが(大統領が全く関係の無いところから唐突に首長を指名することは出来ない)、上述のとおり、大統領はビルマ族がなる可能性が高く、そのビルマ人から選出された首長が地方議会の統治構造の頂点に立つわけであり、従って、ビルマ人と少数民族のコンフリクトが生じる構造になっている。

次に、政権運営上の支配構造から国軍とのパワーバランスを理解しよう。

まず、現在ミャンマーでは25の省庁が存在する。2016年3月にNLD政権が誕生した際、新政権は省庁統廃合で行政組織のリストラを行い、前政権下で31あった省を一時は21まで絞った。(その後、再び増殖し現在は25)

25の省にはそれぞれ大臣が存在し、先に触れた通り議員縛りは無いため、民間からの登用も実際多い。

問題はこの25の省庁のうち治安維持上重要な3省は、大統領の管轄が利かないことだ。

すなわち、 国防省( Ministry of Defence)、 内務省(Ministry of Home Affairs)、国境省( Ministry of Border Affairs)、 の3つは国軍総司令官により大臣が指名され、大統領には任免権が無い。

この3つが何故致命的に重要なのか。

まず、国防省は言わずもがなミャンマー国軍を統括する。大統領には国軍を指示する権限は無く、政権に含まれていると言っても政権と国軍は明確に分かれていると言ってよい。軍が所有する軍用機などは、大統領であっても勝手に使うことは出来ず、国軍にお伺いをたてないといけない。

ロヒンギャ問題において、国際社会はミャンマー国軍の人権迫害に対してミャンマーの政権を批判する論調もあったが、そもそも権限が無いところを批判してみても何ら意味は無い。これは憲法上規定されていることなのだ。

内務省には、警察(Myanmar Police Force)や特別捜査局(Bureau of Special Investigation)がぶら下がっている。治安維持や捜査権を持つ組織が政権のコントロール下に無いということ自体理解に苦しむべきことだろう。

ミャンマーでは内務大臣の持つ権力は計り知れない。軍は内務大臣を通じて国家統治に関わっていると言っても良い。

最後に国境省であるが、何故これが重要なのかはわかりづらいかもしれない。説明し始めると相当長くなるのでここでは簡潔に。

国境省は、国境地域の開発や、地方の天然資源開発を担当する省庁であり、要は少数民族との関係性維持の要となっている。

少数民族は政党とは別に武装勢力を有しており、一部の武装勢力は国境付近で周辺国の支持(中国、以前はタイも含む)を受け国軍との紛争を繰り返している。

少数民族が守ろうとしているのは自分たちの住む地域の天然資源の権益であり、その利権を中央政府に奪われまいと長く内戦を続けてきているわけだ。

国境省は、そうした紛争や利権に絡む部分のど真ん中にある省庁であり、国軍としては自分たちのコントロールを失うことは出来ない構図となっている。

これら3つの重要省庁の支配権を持たない大統領に一体何が出来るか、よく考えればわかることだろう。

以上、ビルマ人を中心とした政権に、少数民族国軍が加わり、絶妙なパワーバランスの元で国の統治が行われていることがご理解頂けるのではないだろうか。

<勝敗ライン>

さてここからようやく気になる選挙の見通しに移っていく。

まず、最初に分数の掛け算の話になるが、全体の25%(4分の1)が国軍に割り当てられている中では、改選議席の3分の2を得ることが過半数を取る為に必要となる。(※3/4×2/3=1/2)

従って、改選議席の66.7%の議席を得れば、理論的には国軍の反対を押し切って国会の運営を握れる。また、単独で全体の過半数を得られなければ、基本的には連立運営が求められることになるだろう。

前回の総選挙では、アウンサンスーチー率いる政党(NLD)が改選議席の8割近くを上院・下院共に獲得した為、上下両院でNLDが単独過半数を得ることとなった。

外国人の立場から、かつ個人的なつぶやきとしてはNLDが「勝ち過ぎた」ことが一つの分岐点であったかと思う。NLD議員は単独過半数を握り、全て自分たちだけで完結する政権運営が出来ると過信した部分もあったように思われるからだ。あの時、少数民族との連携が進めばその後の国内和平への道筋も変わってきたのでは無いかと思われる。

次回選挙の見通しの前に、現状の各党の勢力は以下のようになっている。

<現 政権運営勢力>

NLD(国民民主連盟:National League for Democracy)

上院(135/224、単独過半数)、下院(255/440、単独過半数)、地方議会(476)

<現 野党勢力>

USDP(連邦団結発展党:Union Solidarity and Development Party):旧政権政党

上院(11)、下院(30)、地方議会(73)

ANP(アラカン民族党:Arakan National Party):ラカイン州の少数民族政党

上院(10)、下院(12)、地方議会(22)

SNLD(シャン諸民族民主連盟:Shan Nationalities League for Democracy):シャン州の少数民族政党

上院(3)、下院(12)、地方議会(25)

国政で10以上の議席を持つ政党は以上の4つのみであり、他は各少数民族等が持つ政党が分散している状況にある。

さてここで問題となるのは、次回総選挙でNLDが単独過半数を取れるのか否かであろう。

現在、上院で60.3%、下院で58.0%を有すNLDが前回総選挙のような地滑り的勝利(Landsliding Victoryという英語の直訳でイマイチ腹に落ちない表現ではあるが)ができるのか否か。

ミャンマーでは残念ながらメディアによる世論調査は無く、またヤンゴンの都市部で暮らす私のようなものが周囲のものに聞いてみたところで、広い全土に亘る意見がどのように動いているかを把握することはできない。

ただ、一点自信を持って言えることは、NLDが前回選挙を上回る勝利をすることはまずありえないということである。

その理由は、①直近の補選の結果②USDPの復調③第三極の台頭、の3点だ。

まず、2018年11月に行われた補欠選挙では、 議員の死去等に伴って 国政と地方議会の計13議席(上院と下院で計5議席、地方議会8議席)が争われた。

2015年総選挙ではNLDがそのうち11議席を獲得していたが(上院と下院で計4議席、地方議会7議席)、今回はNLDの獲得は7議席に留まった(上院と下院で計3議席、地方議会4議席)。モメンタムの変化は明らかであろう。

振り返ってみると、現行憲法で第1回目の総選挙(2010年)の時はNLDは選挙自体をボイコットし、国民のアウン・サン・スー・チーへの期待は封印された。それが 2015年総選挙で顕在化し、多くの国民は盲目的に政権の選択を行った部分もあった。

それに対して、2018年の補選の結果は停滞する経済を国民が直視し、一定の不満が表れてきたものと見ることができるだろう。

次に、USDPの復調についてであるが、国民の中にはUSDP時代の経済成長を今になって評価する声が一定程度ある。

上記の補欠選挙では、USDPは元々議席を1つも持っていなかったが、結果として上院1名および地方議会2名の計3議席を獲得するに至った。

USDPは国軍と結びつきが強い政党であり、そのため軍を嫌う多くの国民からは距離を置かれる傾向が強い。しかし、一方で資金力が相対的に強い軍のバックアップは無視できず、また前政権政党としての組織力も高い。

USDPが大きく票を伸ばすことは想定し難いものの、現状の議席数から大きく減らすことも無いものと想定される。

最後に、第三極の台頭についてであるが、2019年11月現在目ぼしい第三極は実際には存在しないと言って良い。ただ兆しは見える。

前政権で下院議長を務めたトゥラ・シュエ・マン(Thura Shwe Mann )は、2019年2月、次回総選挙に向けて新党「Union Betterment Party」(UBP : 連邦改善党)を立ち上げた。

シェエ・マンは、USDP所属でありながら前政権時代よりアウン・サン・スー・チーに近く、軍とNLDを橋渡しする存在として期待されてきた。

同氏が新党を立ち上げた狙いは、ビルマ人のうちNLDに不満を持ちつつ軍に近いUSDPを支持しない層の受け皿となることであろう。個人的にはこの層は一定数いるのだろうとは思われる。

しかし、同氏は元陸軍大将で軍の実質最高指揮官(Joint Chief of Staff,日本で言う統合幕僚長)まで務めていたことから、軍のイメージが国民の中で根強く、果たしてUSDPと違った立ち位置が形成できるかは怪しいところだろう。

従って、現時点で第三極として現実的に考えられるのは少数民族政党の連合だと考える。

2015年総選挙の際も、2つの少数民族政党の連合が存在した(United Nationalities Alliance (UNA)とNationalities Brotherhood Forum (NBF))。

2015年総選挙では、これら連合は実際ほとんど機能しなかった。UNAにあるSNLDが議席の獲得に一定程度成功したものの、他は散々たる結果であった。

しかし、2015年選挙の結果を反省し、各政党は各地の少数民族の票を取り込むべく組織力を高めている動きも見られる。

次回2020年総選挙では、各少数民族政党が躍進する可能性もあり、連合を組んで国会の場で発言力を高めていくことが想定される。

<連立の行方>

ここから先は予想の割合が更に高くなるが、NLDが単独過半数を失うと果たしてどうなるのか。そもそも改選議席の3分の2を上下両院で確保すること自体が極めてハードルが高いところからスタートしている。

上院・下院のいずれか、あるいは両方で単独過半数を失う可能性は個人的には高いものと見ている。

ただ一方、NLDに対する国民の支持は根強く、大きく過半数を下回る可能性は低い。従って、現在の議席数の7-8割程度として試算すると、過半数に届くために不足する議席数は、上院で5~15議席程度、下院で20~40議席程度となる。

NLDがUSDPと大連立を組むというシナリオも2015年総選挙で一部噂されたが、その可能性は想定し難い。国民は軍に対する根強い反発の中でNLDを選択している部分も大きく、そのNLDが軍と近いUSDPと組めば国民の支持が離れ、自らの首を締めかねない。

獲得議席数次第にはなるが、UBPがUSDP議員を取り込んで連立を組むのがNLDにとってはよりインパクトが小さいとは言える。このシナリオも無くは無いが、立ち位置(主張)の微妙なUBPが果たして政党として機能するかどうかは不透明要因が大きい。

現時点の想定として、消去法的に言ってNLDが連立を組める相手は上記に挙げた少数民族政党の連合となる可能性が高い。少数民族政党も連立を視野に連携の動きが加速するだろう。その結果、不足する議席数を補う連合が現れればNLDとの連立政権が成立しうるというシナリオである。

少数民族政党が政権に入ることにより、閣僚ポストも分散されるであろう。現在NLDがコントロール可能な22省庁(全体の25から国軍所管の3省庁を除く)のうち、少数民族連合の議席数に応じて一定の数の大臣ポストが割り振られるものと考えられる。個人的には重要閣僚ポストに少数民族が入ってくるものと予測する。

連立政権は、意思決定の遅延を招きかねず短期的にはネガティブであるが、長期的にはミャンマーにとってポジティブに働くものとして見ている。

それは、軍の政治への介入が起こっている一つの根拠は内戦の継続にあるからだ。少数民族が国会の場で、あるいは政権運営の当事者としてそれぞれの利害をぶつけ合うことによって国内和平の進展が見られる可能性もある。

今後、次回総選挙に向けて様々な情報が入り交じることになるであろう。また改めてアップデートを行いたいと思う。

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