ミャンマー資本市場創設メンバーが語るミャンマー経済・投資の実際

ミャンマーのM&A実務(ミャンマー企業への出資に際してはここに注意。財務デューデリジェンスのポイント)

新会社法成立により、今後ミャンマー企業に対する外国資本参入が進展することが見込まれる。

これまで、登記上既に外国企業である会社或いはMIC認可において外国資本の参加が前提とされている企業を除いては、既存企業に対して外国資本が入ることは原則許されず、従って、新たに合弁会社(JV会社)を設立することが主流であった。JV設立にあたっては、ミャンマー側企業は事業の譲渡、或いはライセンス使用権や土地リース権等を現物出資(In Kind Contribution)し、日本側が現金で応じる運用がなされてきた。

このような中では、外国企業はミャンマー側より移管されるアセットに対する査定(DD:デューデリジェンス)を行うことで足り、提携先(合弁相手先)自体の財務・法務DDは必ずしもMustでは無かった。

JV会社を新設すれば、過去に遡及されることは無く、レガシーを負う必要は無い。ガバナンスや事業運営について合弁契約書(Joint Venture Agreement)で定めて、白紙のところから新たに事業運営を開始出来る。

外国企業としては、合弁相手先の市場内でのレピュテーションや訴訟・紛争関係といった信用調査を行う程度で済ます運用がなされてきた

 

<新会社法による変化>

新会社法は、既にあるミャンマー企業(現地資本100%)に対しても最大で35%までの外国資本の参入を認め、このことはこれまで一般化されてきたミャンマーM&Aの慣習を変えることに繋がるだろう。既存のミャンマー企業というブラックボックスにいよいよメスを入れることになるわけだ。

当社はミャンマー企業とのM&Aを当事者として、或いはアドバイザーとして数多く見てきているが、出資に際してのDDの中で、特に財務DDでは数多くのチャレンジを乗り越えてきた。正直に言えば、失敗も重ねてきた

ミャンマー企業に対する財務DDは経験の無い物が扱うのは相当危険である。自信を持って言えるが、他国での経験がある人でも必ず見落としが出る

仮に、当社のようにミャンマーでのM&Aの経験があったとしても、リスクが軽減される程度で、リスクを完全に排除することは基本無理筋だ。

以下は、これまで当社がヤンゴン証券取引所への上場準備アドバイザリーやM&Aアドバイザリーを行う中で、財務DD資料として提示している初期的に対象会社から得る資料をまとめている。これらは基本的には一般的な項目と言える。

<基本的な初期資料>

財務DDにおける初期的な徴収資料
1 定款及び附属定款(MOA/AOA, 新会社法ではConstitution)
2 設立登記書面(Corporate Certificate)
3 Form 6(株式配分表)、Form E(株主名簿)
4 Form 26(取締役名簿)
5 株主総会、取締役会議事録(直近3年間)
6 事業上必要となる許認可証
7 事業上特に重要な契約書(JV契約、マネジメント契約等)
8 監査済み財務諸表(直近3年間、関連会社含む)
9 月次決算資料
10 固定資産リスト
11 在庫リスト
12 銀行預金通帳(残高確認)
13 グループ会社間資本構造表
14 売上・仕入上位10社リスト
15 売掛金・買掛金の内訳表
16 雇用契約書
17 組織図
18 MICへの提案資料(MIC認可を得ている場合)
19 MIC認可書面(MIC認可を得ている場合)

 

<確認ポイント>

ミャンマー企業に対する財務DDでは、通常我々が常識と考えている事項に対しても、よくよく立ち返る必要がある。

国際的なアドバイザリーファームの専門家であっても、この当たりの”常識”の定義が違うことが見受けられる。

更に重要なことは、ポイントを知識として分かっているかでは無く、実際に確認出来るかであろう。両者の違いは、相手先からの信用をベースとした協力を得られるかにも大きく依存する。

この点、相手先との信任関係の構築、及びミャンマー人がミャンマー語により正しく趣旨を説明することが重要である。

対象会社の財務に関する知識は往々にして低い為(財務に精通した社員がいる会社の割合は低い)、バイサイドとの認識共有の為には辛抱強い交渉が必要となる。

ミャンマーにおけるM&Aのブレーク要因で最も多いのはバリュエーション目線の違いと言えるが、財務DDに入る前提認識の違いがあっさりとブレークに繋がるリスクも孕んでいる。

例えば、以下のような項目の多くは、我々が通常「常識」的に問題無いだろうと思っているところに落とし穴があるケースがある。これらの点については特に注意を払うようにしたい。

ミャンマー財務DDにおいて特に確認が必要な事項(例)
1 会計関連規程(Accounting Policy)とその運用状況の確認
2 会計システム導入と運用状況の確認
3 減価償却資産及び金額の妥当性確認
4 売上計上基準の妥当性確認
5 無形固定資産にかかる所有権確認
6 外部コンサルタント等への支払い状況確認
7 売掛金の回収可能性検証
8 資本の払込状況確認
9 在庫及び固定資産の実在性確認
10 納税状況確認
11 (雇用契約の締結・届出状況確認)
12 (役員・株主の経歴、バックブランド確認)

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