ミャンマーの不動産投資の難しさ(複雑な法体系と曖昧な権利関係。外国人所有に向けたコンドミニアム法の行方)
2011年の民政移管後、世界の注目は今後の長期的な経済発展が見込まれるミャンマーに注がれ、ラストフロンティアにおける不動産への注目が一気に高まった。
ミャンマーでは外国人が不動産を所有することは認められていないものの、実態としては中国人を中心とした外国人がミャンマー人名義を用いる等により不動産投資を進め、特にヤンゴン・マンダレー等の都市部における不動産価格は飛躍的に上昇した。
不動産価格は2014から2015年頃にピークをむかえる。
ヤンゴンのダウンタウンにおけるオフィス月間賃料は1平米90ドル(1坪3万円超)程度まで上昇し、東京都心部の一等地と並ぶほどの価格が散見された。
ホテルについても出張者が利用するシャングリラホテルやセドナホテル等において、1泊220ドル程度までの上昇が見られた。
新政権(NLD政権)移行による行政上の失策や観光需要の一服も手伝って、その後不動産市況は全体に沈静化。
価格に下落傾向は見られるものの、依然全体感としてはホテル・レジデンス・オフィスどれを見ても周辺国との比較でのコストパフォーマンスの低さが指摘されている。
<不動産権利関係にかかる複雑性>
日本のみならず海外からミャンマー不動産投資に対する関心は高いものの、ミャンマーの不動産にかかる権利関係は極めて複雑或いは曖昧であることを理解しておく必要があるだろう。
これは19世紀においてイギリスがミャンマーを段階的に植民地化していく中で部分部分で適用される法令を結果的にはアドホックに制定していったことも関係している。
例えば、第3次英緬戦争でイギリスがミャンマー全土の植民地化を果たしたのは1886年であるが、それ以前の1876年に制定されている土地租税法(Land and Revenue Act)は140年経った現在でも依然その効力を有している。
また独立前に制定された1947年旧憲法、及び民政移管に向けて制定された2008年の現行憲法いずれにおいても、国家は土地の最終的な所有権を有していることが謳われており、その意味で国からの土地の借り受け(Grant / Lease)が原則ではあるものの、1899年に制定されている下ビルマ町村土地法(Lower Burma Town and Village Lands Act)では、Landholder’s Rightとして所有権(Freehold)(※)を認めている。
※ここで言う所有権は、究極的には国家が国民の土地所有権を接収すること出来る前提の上での所有権と解釈されるようだ。
<外国人による不動産所有>
不動産譲渡制限法(Transfer Immovable Property Restriction Act 1987)3条では、外国人及び外国企業に対して不動産を売却、贈与、抵当権設定等の手段の如何によらず譲渡することを制限している。また、4条では外国人及び外国企業が逆にこれを譲り受けることも禁じている。1年を超えるリースさえ禁止されているのだ。
なお、同法2条では、外国企業の定義として、「ミャンマー人が過半数を所有していない会社」としており、この意味では外国人がマイノリティ出資を行っている会社はミャンマー企業(内資企業)であり、土地保有が許されるようにも読める。しかし、実務運用上は会社法における外国企業の定義と同様に1株でも外国人が保有していれば法人登記上外国会社と位置付けられ、不動産譲渡制限法における外国会社と見做される点に留意が必要である。
<コンドミニアム法>
ミャンマーでは建物は土地に付着するものとされ、土地の所有者が建物の所有者になるものとされている。
これに対し、2016年1月に制定されたコンドミニアム法(Condominium Law)は、その例外として建物の一部であるコンドミニアムの所有権・売買の位置付けを明確化し、これまで閉ざされてきた外国人の不動産所有開放に向けた基盤が整えられた。
同法ではコンドミニアムの定義として、共同保有の登記がなされていること、かつ6階以上の建物であることとしており(同法2条)、そのようなコンドミアムについて全体の40%以下を外国人に販売することができるものとしている。
但し、この40%の計算については、面積、価値或いは住戸数により算出されるのかなどは明らかでは無く、この点については施行規則において今後明確化されていくことが期待されている。
関連記事 : 外国人に対するミャンマー不動産投資がついに解禁へ(コンドミニアム法の施行規則公表により外国人による不動産投資ルールが明確化) 2017年12月16日
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