ミャンマーの銀行(銀行業界の歴史及び現地銀行の状況)
ミャンマーの銀行口座保有割合は概ね10%程度と言われており、銀行サービスが広く国民に浸透しているとは言えない。
また、銀行からの借入により事業拡大を図る企業も限られており、経済全体の中で金融仲介としての銀行が果たしている役割は依然高くはない。
このような状況に至った背景として、この国の銀行を取り巻く歴史を理解することが重要だ。
<銀行業界の歴史>
ミャンマーでは、1962年にネウィン将軍による軍事クーデターを発端に、翌年の1963年に当時あった民間商業銀行24行(現地銀行10行、外国銀行14行)が全て国有化された。
1969年には、ビルマ連邦人民銀行(Peoples’ Bank of the Union of Burma)に統合されて以来モノバンク制(要は唯一の銀行のみ認める体制)が敷かれてきた。
1976年、ビルマ連邦人民銀行は、ミャンマー中央銀行、ミャンマー経済銀行(MEB: Myanma Economic Bank)、外国為替銀行(MFTB : Myanma Foreign Trade Bank)、農業銀行(MADB : Myanma Agricultural Development Bank)、保険公社(Myanmar Insurance Corporation)の5つの金融機関に分割された。
またその後、1990年にはミャンマー投資商業銀行(MICB:Myanma Investment and Commercial Bank)がMEBから分離独立する形で新設された。
1990年の金融機関法の制定まで民間銀行の設立は認められず、全ての商業銀行業務は、MEB一行によって担われてきた。
MEBは全国に330あるタウンシップのほとんどに拠点を設け、国民経済を支える基盤とされてきた。
政府部門が金融システムを独占し、金融機関は連邦政府の一部として国有企業を含めた公的部門に資金を供給することを中心とした役割を担ってきたと言える。
その後、金融機関法の施行に基づき、1992年に民間銀行の認可が再開された。
1997年までは、積極的に民間への銀行ライセンス発行を行っていたものの、アジア通貨危機及び2003年のミャンマー金融危機により新規のライセンスは取り止められ、金融界の事業活動は低迷を続けることとなった。
その後、長い空白期間が生じた後、民主化直前となる2010年にミャンマー中央銀行(CBM : Central Bank of Myanmar)は4つの財閥に対して新規の銀行ライセンスを付与。
当該4行はその後の経済の対外開放において大きな役割を果たしてきた。
2011年の民主化以降、CBMはこれまで新規で5つのライセンスを付与してきている。
<2003年の金融危機とは>
ミャンマーの金融危機は、2003年2月初旬、当時民間銀行で最大規模であったAsia Wealth Bank(AWB)に不祥事の噂が発生したことによって生じた。
AWBの各支店では預金引き出しのための行列が目立ち、取り付け騒ぎとなった。
2003年当時のミャンマーの民間銀行上位5行の規模は以下のとおりである。AWBは資産規模で他を圧倒しており、国民生活への幅広い影響が懸念された。
認可日 | 2003年時点 | |||
支店数 | 従業員数 | 総資産 | ||
Asia Wealth Bank | 21 Nov 1994 | 39 | 3005 | 2514億Ks |
Yoma Bank | 26 Jul 1993 | 41 | 2016 | 42億Ks |
Kanbawza Bank | 6 Aug 1994 | 23 | 1400 | 77億Ks |
Myanmar Mayflower Bank | 17 Mar 1994 | 24 | 1031 | 1567億Ks |
Myanmar Universal Bank | 21 Nov 1994 | 26 | 1500 | 191億Ks |
そもそもの噂の背景は、2002年後半から目立ち始めた総合金融サービス会社(GSC : General Services Companies)の破綻が相次いだことによる連鎖影響とされている。
GSCとは、1997年以降新規の銀行ライセンスの認可が閉ざされた中、民間企業がインフォーマルに金融ビジネスを行う為に設立された企業を指す。
一般の事業法人として設立し、不動産や旅行業を本業としつつ、投機活動を行い投資家に対して高い利回り(月利2-6%程度)を約束して資金を調達。一般の事業会社であるから中央銀行の管理は及ばず、何ら規制を受けることが無かった。GSCは瞬く間に国民に浸透、ヤンゴン及びマンダレーを中心に約20のGSCが営業を行っていた。
高い調達金利での運用は次第に限界を向かえ、2002年後半より、GSCは徐々に清算され、2003年3月には全てのGCSが解散に追い込まれた。
国民は、度重なるGSCの破綻の中、AWBにかかる風説に対して過敏に反応した。AWB自身のみならず、中央銀行も沈静化の為のアナウンスを行ったが、それも虚しく、預金引出は2003年8月頃まで継続。
AWBの預金残高は取り付け前の4分の1程まで減少し、同社を市場から退出させることにつながった。
結果的に、同行の破綻等に伴って国民の銀行資産が失われることは無かったものの、国民の銀行に対する不信は高まり、その後のミャンマー金融史に大きな負の影響を与えたことは間違いないだろう。
<民間銀行の規模推移>
上記の通り1992年に民間銀行に対するライセンス交付を開始して以降、ミャンマー銀行業界は紆余曲折を経ながらも成長をたどってきた。
下の表は、1995年度以降、2013年までのミャンマー民間銀行全体の資産状況を6年ごとに区切って示したものである。
1995⇒2001や2007⇒2013に比較して、2001⇒2007の成長が想定的に低いのが理解出来るだろう。これは上記の金融危機の影響も大きいと考えられる。
単位(百万Ks) | ||||
1995年度 | 2001年度 | 2007年度 | 2013年度 | |
総資産 | 20,231 | 597,174 | 1,949,905 | 30,147,020 |
貸出残高 | 9,719 | 309,561 | 775,458 | 8,318,018 |
預金残高 | 15,705 | 487,101 | 1,583,543 | 17,384,273 |
払込資本 | 1,496 | 19,504 | 72,941 | 625,110 |
純資産 | 1,546 | 27,303 | 116,477 | 2,033,852 |
預貸比率 | 61.9% | 63.6% | 49.0% | 47.8% |
自己資本比率 | 7.6% | 4.6% | 6.0% | 6.7% |
<現地民間銀行の状況>
2017年11月末現在、ミャンマー中央銀行(CBM:Central Bank of Myanmar)が公表している銀行ライセンス保有企業は以下の24社である。
この内、1992年から97年までに設立された銀行が15行、2010年設立の銀行が4行、民主化後の2011年以降に設立された銀行が5行となっている。
(追記)2017年12月1日、CBMは5行の新規ライセンスを発行(Myanmar Tourism Bank, Mineral Development Bank, Glory Farmer Development Bank, Mandalay Farmer Development Bank, Shwe Nann Saw Bank)
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銀行名 | 認可日 |
本店所在地 |
1 | Myanmar Citizens Bank Ltd | 25.5.1992 | No- 256/260, Sule Pagoda Road,Kyauktada Township, Yangon |
2 | First Private Bank Ltd | 25.5.1992 | No-619/621 Merchant Road , Pabedan Township,Yangon |
3 | Co-operative Bank Ltd | 3.8.1992 | No-334/336 Corner of Strand Road and 23rd street, Latha Township, Yangon |
4 | Yadanabon Bank Ltd | 27.8.1992 | No-58(A) 26 Bayintnaung Street Between 84*85 Street, Aung Myay Tharzan Township, Mandalay |
5 | Myawaddy Bank Ltd | 1.1.1993 | Plot B-1 Near Thiriyadana Super Market, Hotel Zone, Naypyitaw |
6 | Yangon City Bank Ltd | 19.3.1993 | Coner of the Settyon Street & Banyerdala Street Mingalar Taung Nyunt Township,Yangon |
7 | Yoma Bank Ltd | 26.7.1993 | No-1, Kungyan street Mingalar Taung Nyunt Township,Yangon |
8 | Myanmar Oriental Bank Ltd | 26.7.1993 | No-166/168 Pansodan Road Kyauktada Township, Yangon |
9 | Asia Yangon Bank Ltd | 17.3.1994 | No-319/321 Mahabandoola Road Botadaung Township Yangon |
10 | Tun Foundation Bank Ltd | 8.6.1994 | No-165/167 Bo Aung Kyaw Road(Middle), Kyauktada Township Yangon |
11 | Kanbawza Bank Ltd | 8.6.1994 | 615/1, Pyay Road, Kamayut Township, Yangon |
12 | Small & Medium Industrial Development Bank Ltd | 12.1.1996 | Plot No-2, Oktayathiri Quarter, Naypyitaw |
13 | Global Treasure Bank Ltd | 9.2.1996 | No-654/666 Merchant Road Pabedan Township, Yangon |
14 | Rual Development Bank Ltd | 26.6.1996 | Plot-2, Compound of Thiriyadanar Super Market, Naypyitaw |
15 | Innwa Bank Ltd | 15.5.1997 | No-550/552 Corner of Merchant Road and 35th Street Kyuktada Township, Yangon |
16 | Asia Green Development Bank Ltd | 2.7.2010 | No-168, Thiri Yatanar Shopping Complex, Zabu Thiri Township, Nay Pyi Taw |
17 | Ayeyarwaddy Bank Ltd | 2.7.2010 | Block (111, 112), High Grade Market, Datkhina Thiri Township, Nay Pyi Taw |
18 | United Amara Bank Ltd | 2.7.2010 | Block (2), Asint Myint Zay, Yaza Thingaha Road, Oattara Thiri Township, Nay Pyi Taw |
19 | Myanma Apex Bank Ltd | 2.7.2010 | Block (10), Asint Myint Zay, Yaza Thingaha Road, Oattara Thiri Township, Nay Pyi Taw |
20 | Naypyitaw Sibin Bank Limited | 28.2.2013 | Shopping Complex No(25/26), Yazathingaha Road, Oaktarathiri Township, Nay Pyi Taw |
21 | Myanmar Microfinance Bank Limited | 2.7.2013 | Sayar San Plaza, Corner of New University Avenue & Sayar San Road, Bahan Township, Yangon |
22 | Construction and Housing Development Bank Limited | 12.7.2013 | No.(60), Shwedagon Pagoda Road, Dagon Township, Yangon |
23. | Shwe Rural and Urban Development Bank Limited | 28-7-2014 | No.(420), Merchant Road, Botataung Township, Yangon |
24. | Ayeyarwaddy Farmers Development Bank Limited (A Bank) | 17-11-2015 | No. (33), Corner of Mahar Bandoola Road and Myaing Haymar Road, Ward (3), Pathein |
<上位10行の資産及び支店数(2016年8月現在)>
民間銀行の中では、2012年より支店網を積極的に拡大させてきたカンボーザ(Kanbawza)銀行が圧倒的なシェアを有す。
大手財閥の一角であるMax Myanmarグループに属するエーヤワディ(Ayeyawaddy)銀行が急速に追い上げる構造となっている。
日系メガ3行はいずれも支店ライセンスを有し一定の現地業務を認められているものの、外銀には認められていない業務について現地企業とのパートナーシップによって補完している。各行の現地銀行との提携は以下のとおりである。
三菱東京UFJ銀行 : CB銀行
三井住友銀行 : カンボーザ銀行
みずほ銀行 : エーヤワディ銀行
Source : GIZ Myanmar Financial Sector 2016
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