ミャンマー新会社法を解説(関連当事者取引の取扱い:Related Parties Transaction)
2018年8月1日に施行されたミャンマー新会社法を地道に解説。
今回は更にマニアック度を増して、関連当事者取引(RPT:Related Parties Transaction)の取扱い、要は会社と会社関係者等との取引についての注意点を取り上げる。
新会社法では、コーポレート・ガバナンスのあり方について幅広い規定を設けているわけであるが、関連当事者取引は、ガバナンスの中でも重要な項目の一つ。特にミャンマーの財閥系企業は、概してRPTまみれであることからしても、会社法での取扱いを正しく理解しておくことは、現地ビジネスの遵法性への理解を深めるのに役立つだろう。
なお、外資系企業においても、合弁先企業との取引について関連当事者取引に該当する場合があるため、この点十分留意したい。
それでは長くなるが、まずは用語の定義から。
関連当事者(Related Party)とはそもそも誰を指すのか。
第1条C項33(用語の定義)
(xxxiii)“related party” means:
(A) in relation to a body corporate, a person which controls the body corporate; and
(B) in relation to a person (including a body corporate):
(I) an associate of the person (other than a related body corporate of the person);
(II) a spouse, parent or child of an associate of the person; and
(III) a body corporate controlled by any of the persons referred to in sub-sections (A) or (B)(I) and (II) above.
(A)では、対象会社をコントロールする会社又は個人、としている。
ここで「コントロール」(或いは「支配」)とは何を指すか。
実は、会社法の中では明確な定義は見つからない。一般論で言えば、株式の過半を保有する或いは取締役会への実質的な影響を通じた支配関係にあると解釈される。ここでは、会社の実質所有者、程度に理解しておけば良いだろう。
次に(B)では、(Ⅰ)対象会社のAssociate、(Ⅱ)Associateの配偶者、親、子供、(Ⅲ)実質所有者、或いは(Ⅰ)(Ⅱ)によってコントロールされている企業としている。
ここでいう「Associate」とは何かと言えば、第1条C項2に定義されており、会社及び関連会社の役員及び秘書役(Secretary)等とされている。
従って、わかりやすく言えば、会社役員等、その家族、及びそれらによって支配されている会社を(B)では関連当事者として規定している。
以上を簡単にまとめると、支配株主(親会社等)、姉妹法人、対象会社の役員等、役員等の親族、役員等又はその親族によって保有されている法人となる。
ミャンマーの財閥企業の実態に照らして見ると、財閥各社は、多数の企業を持株会社構成ではなく、オーナー(財閥の実質トップ)、或いはその家族が個人でそれぞれの傘下企業の株式を保有している構造にある。
これら実質的なグループ企業は上記の定義により、関連当事者と見做され、従って、兄弟会社間の取引やグループ会社とオーナー家の個人等が取引を行うことも網羅されることになる。
次に、関連当事者との「取引」とは何を指すのか、また「取引」にあたると何が発生するのか。これらは、新会社法187条及び188条に規定されている。
187条(Remuneration of directors and other benefits to directors and related parties)
(a) The board of a company may, subject to any restrictions contained in the constitution of the company, applicable provisions of this Law and any other applicable law, authorise:
(vi) if the board is satisfied that:
(A) to do so is in the best interest of the company;
(B) to do so is reasonable in the circumstances; and
(C) the payment or benefit or loan or guarantee or contract is on made on
terms that are no worse than arm’s length from the perspective of the
company.
(a)項の(i)から(v)は長いので割愛するが、ここでは、関連当事者に対する様々な「取引」に対して、取締役会の承認を求めることとしており、「取引」には、報酬の支払い、資金の貸付け、債務の保証等、Financial Benefitを与える幅広い行為として網羅されている。
例えば、会社の不動産を役員等へ貸与する行為や役員等から資産を買い取る行為等も含まれるだろう。
このような「取引」を行う場合、上記の(a)の(vi)が重要で、取締役会は(A)それが会社にとって最善の選択であるか、(B)それが状況に照らして合理性を有しているか、(C)それが他の通常の第三者との取引条件と照らして、会社にとって不利なものでないか(アームスレングス取引となっているか)、の3点をもとに承認の是非を決議することとなっている。
同条の(b)から(f)までは割愛して、(g)も重要なので触れておく。
187条続き
(g) The directors must ensure that particulars of the payment or benefit or loan or guarantee or contract are disclosed to members at the next annual general meeting of the company.
ここでは、関連当事者取引について、取締役は当該取引が行われた後に行われる株主総会(AGM)においてその内容を報告しなければならないとされている。公開会社(Public Company)であれば、実務的には年次報告書等に記載することになる。
さて、187条までであれば国際的な慣習との相違は特段なく、腹に落ちやすいかと思われるが、今回の新会社法の欠点とも捉えられる実務を無視した規定がここから続き、話は更に複雑になっていく。
何が実務無視かということをを実感頂くため、188条の全文を追っていく。
188条(Member approval of remuneration of directors and other benefits to directors and related parties)
(a) The board of a company may, subject to any restrictions contained in the constitution of the company, applicable provisions of this Law and any other applicable law, authorise a payment or benefit or loan or guarantee or contract of the kind referred to in sub-section 187(a) to a director or other related party of the company if it is approved by members under this section.
取締役会は、関連当事者取引について株主総会の承認が必要だとしている。上記の187条との関係で言えば、まずは株主総会で大枠の承認を取った後で、個別のものについては取締役会(187条a項(vi)を満たす形)で決定となる。
(b) Before the notice convening the relevant meeting is given, the company must file with the Registrar:
(i) a proposed notice of meeting setting out the proposed resolution;
(ii) a proposed explanatory statement setting out all information known to the company that is material to the decision on how to vote on the resolution, including details of the director or related party receiving the payment or benefit or loan or guarantee or contract and details of such the payment or benefit or loan or guarantee or contract; and
(iii) any other document that is proposed to accompany the notice convening the meeting and that relates to the proposed resolution.
ここでいうRegistrarとは投資企業管理局(DICA:Directorate of Investment and Company Administration、通常「ダイカ」と読ぶ)のことで、ここでは(a)に規定された株主総会を招集する前にDICAに対して届け出を行わないとならないとされている。
提出するのは3点。(i)予定している株主総会決議事項を記載した株主総会招集通知のドラフト、 (ii)決議をするにあたり必要となる重要な情報(関連当事者取引の具体的内容)を記載した説明書類、 (iii)株主総会決議事項に関連する補足資料、の3つ。
(c) The Registrar will have 28 days to determine whether the company may release of the notice of meeting to members. If the Registrar determines that the notice may be sent, or a determination is not issued within this period, then the company may send the notice of meeting.
ここが最も厄介なポイントであるが、DICAに対して届け出を行った後(この段階ではまだ総会の招集通知を出すことも許されていない)、DICAは28日間の内容確認期間を設けるとしている。この間にDICAがGOサインを出せば、その時点で招集通知の発送が許される。或いはDICAから何の音沙汰もない場合、28日間が経過した時点でも同様に発送して良いことになる。
(d) In making a determination under sub-section (c) the Registrar may direct the company to clarify or vary any document submitted under sub-section (b) where this is considered reasonably necessary for the protection of members.
DICAは、受け取った書類について追加的な確認を行ったり、或いは株主保護の観点から(b)の書類の変更を求めることもある。
(e) The Registrar may determine that the release of the notice of meeting must not occur if satisfied on reasonable grounds that the requirements of sub-section (b)(ii) have not been met or for similarly significant cause.
DICAは、取引の必要性に関する説明において合理的な範囲で重大な懸念があると認められた場合、招集通知の発送を止めることができる。
(f) The director or relevant related party must not vote on the resolution at the general meeting (unless pursuant to a proxy from another person which directs them how to vote).
取引の当事者となる関連当事者は、株主総会の決議において議決権を持たないこととなる。当事者を議決に入れないのはオーソドックスな取扱いと言える。
(g) The company must lodge with the Registrar a copy of any resolution under subsection (a) within 14 days after it is passed.
会社は、株主総会の決議から14日以内に、DICAに対して議事録の写しを届け出ることが求められている。
以上、だらだらと原文を訳し長くなってしまったが、簡潔にまとめると、関連当事者取引にあたっては以下の3段階のプロセスを踏むことが必要と、会社法は言っている。
1.招集通知発送前にDICAに対して届け出
2.招集通知を発送し、株主総会で決議
3.株主総会決議の範囲で、個別取引に対して取締役会で決議
ミャンマーのガバナンスを強めたい、特に利益相反取引についてけん制したい、という立法趣旨には賛同できるものの、果たして、外資企業も含む全ての企業が、関連当事者取引のたびにこのような手続きを踏むことは不可能だろう。特に、DICAがそうした書類を受け取り確認するということが、質・量両面においてワークしようが無いことは明らかだ。この点、実務上、どのように捉えれば良いのか大変悩ましいい。
形骸化されることが目に見えているとは言え、特にコンプライアンスを意識する日系企業からすれば完全に無視することも難しく、今回の会社法における一つ大きな問題点として捉えることが出来る。
<参考> 金融機関における関連当事者の取扱い
上記の会社法の規定とは別に、例えば金融機関(銀行・ノンバンク等)については、個別の取扱いがなされる。
金融機関法では、関連当事者を以下の通り定義している。
金融機関法2条(ii)
Related party in relation to a financial institution means-
(1) a person who has substantial interest in the financial institution or the financial institution has significant interest in the person;
当該金融機関へ「Substantial Interest」を持つ個人、或いは当該金融機関が「Substantial Interest」を持つ個人。
(2) a director or officer of the financial institution or of a body corporate that controls the financial institution;
当該金融機関の役員等、或いは当該金融機関を支配する企業。
(3) a relative of a natural person covered in paragraphs (1) and (2);
上記の(1)及び(2)における個人の親戚。
(4) an entity that is controlled by a person described in paragraphs (1), (2) and (3);
上記の(1)~(3)における個人が支配する企業。
(5) a person or class of persons who has been designated by the Central Bank as a related party because of its past or present interest in or relationship with the financial institution.
過去を含む経歴等から当該金融機関との関連性を有すとミャンマー中央銀行に指定された者。
なお、ここで重要な「Substantial Interest」については以下のとおり、明確な定義がなされている。
(ll) Substantial interest means owning, directly or indirectly, ten percent or more of the capital or of the voting rights of a financial institution or, directly or indirectly, exercising control over the management of the financial institution, as the Central Bank may determine.
間接・直接によらず、資本又は議決権の10% 以上を有すこと、或いは間接・直接によらず当該金融機関の経営を支配することが可能な状態。
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