ミャンマー経済の今を知る(ミャンマーブーム後の踊り場から抜け出せるのか)
2019年11月現在、ミャンマー国内の景況感は総じて芳しくない。というよりも、2016年3月の政権交代以降、基本的には下降トレンドが続いてきた。
一体、いつ反発してくれるものなのだろうか。
外国投資金額の推移は盛り上がりには欠けるものの決して悪くは無い。
進出予定企業との接点が多い弁護士事務所などでは新規の進出案件は続いているようだ。
また、全体感としてのGDP成長率(IMF2019予測:6.2%)を見ても大きく落ち込んでいるようには見られない。
しかし、街角景況感としてはミャンマーの経済界の方々と話す度、実態値としてのモメンタムが大きく低迷していることを感じざるを得ない。大手小売店の既存店売上も弱含んでいる。
ミャンマーの日系企業について言えば、進出済み日系企業の44%が今年度赤字を見込んでいる(JETRO)。これは東南アジア10カ国中最低だ。肌感覚では実際にはこれよりも更に酷いように思う。
一体、ラストフロンティアに何が起こったのだろうか。
<ミャンマーブーム後の踊り場>
パチンコ屋に例えて見れば、ミャンマーという店は2011年3月に華々しく新装開店を迎えた。旧USDP政権のテインセイン大統領が大きく経済開放へ舵取りを切った。
2013年から2014年頃にかけては、正にブーム真っ盛り、店の前には数十メートルの行列ができ、店は大混雑、メディアも「ラストフロンティア」として取り上げてこれを大きくあおった。
不動産や人件費は高騰。日本人の性である「並んでいるから並ぶ」という現象も決して少なくは無かった。商工会(JCCM)の企業数は2012年3月末には53社に過ぎなかったが、2016年3月末には284社と5倍超まで急増した。
アウンサンスーチーが率いるNLD政権が幕を開けた2016年3月。多くの人はまだこの店が「良いパチンコ屋」だと信じていた。金を投じればきっと玉が出ると。
その年の10月に米国による経済制裁が全面解除され、店の中はパッと明るくなったような気もした。ただ、どうもそれは気のせいだったようだ。
2017年から2018年にかけて、ミャンマーに対する外資の様子見姿勢は強まった。既存の進出企業の中にも、店から離れることを考える人が増え始めた。
店に入った時の熱狂はもはや無い。散々すられて、もうこりごりという人たちも増えた。
<一体何が起こっているのか>
新装開店の宣伝に乗って進出した日系企業は、徐々にこの店は何かおかしいと感じ始めた。
自分の台だけでなく、周りにも玉が出ている人が見つからない。
見回してみると、まともに玉が出ているのは、国営通信会社と合弁事業を行うKDDI・住友商事連合と、軍と合弁でミャンマービールを作るキリンビールぐらいのようだ。
これら二社は特殊な台で、普通の日系企業が座る椅子とは違う。
違和感は失っていく現金の速さから生じてきた。
ミャンマーの一人当たりGDPは1200米ドル程度に過ぎず、何処を見渡してもマーケットとしての大きさは無い。入ってくる現金は、当初作った事業計画が無残になる程だ。
一方、異常な不動産価格の高騰や、オペレーションの効率化が難しい中で高留まる人件費、また、日本人の駐在コストも重くのしかかる。
台から出てくる球の少なさと、台に吸い込まれる現金の速さがダブルに効いてくる。そして呟く、「こんな酷い店初めてだ」。
この店のオーナーは、ミャンマーブームで味をしめたのかもしれない。当時は放っておいても客が吸い込まれてきたのだから。
客に球を出してやる必要性など誰も考えていなかったのだろう。
2018年以降、現政権はさすがにまずいと思ったのか、広告を出して客集めを始めた。
しかし、店の中では、依然誰も球が出ていない。客は儲けるために店に来るのであって、儲からなければ誰も来ない、ただそれだけのことなのに。
<ティッシュ配りの苦悩>
私のように、店の従業員でも無いのに、店の前でティッシュ配りをしている者にとってもなかなか厳しい状況だ。
店の素晴らしさを呼びかけて見たところで、ガラス越しに全く球が出てる気配が無いことはすぐにバレてしまう。店内の停電はゲームを楽しむ前提を蝕む。停電の中でゲームを如何に楽しめるというのだろうか。
終いには、新規の客が店の中に入ってきて座っている客に様子を聞き始める。赤字に苦しむ日系企業は嘘は言わない、「全然ダメですわ」と。
当然ながらティッシュ配りの私は「この店は出ますよ」などと呼びかけられる状況ではもはや無い。
ただ、関心を失って家路につこうとする客に「今は出てないけれども、夕方頃には出始めるはず、夕方戻って来ても、もう席は埋まっているかも」とささやくのだ。
<本格成長軌道に乗るまで持ちこたえる>
台に座っているからこそ店内の変化を敏感に読み取れることはあるだろう。
今取れる作戦は、とりあえず席を囲って、夕方のフィーバー(きっと来るはずの)に備えること。
店員に追い出されないぐらいギリギリのラインでちょこちょこ打つ。どうせ出ないのだから大金を投入するのは控えるのが得策だ。
長く打てば台の傾向も分かって来るかもしれない。それはブーム再来の時に活きてくる経験になるだろう。
フィーバーが来るのが夕方の一体何時なのかをティッシュ配りに聞かれても困る。
ただ過去にあった近所の新装開店のケースを見る限り、それは決して遅い時間帯でも無いだろう。
<今後の見通し>
この店の立地は悪くなく、店員の愛想もなかなか良い。本来、人気店になってもおかしくない。歯車が合い始めれば、一気に大型店へ向かって店を拡張していくかもしれない。
景気が悪い中にあっても、法制度の整備は確実に進んで来たし、不動産価格は合理性を取り戻してきた。
店の中では新しい台も増えてきた。
次回総選挙が一年後に迫る。政権の大きな変化は生じないであろうが、仕切り直しの政策転換で、雰囲気が大きく変わる可能性は秘めている。
考えようによっては、今がドル箱の良台を取れる絶好のチャンスかもしれない。客と一緒にリスクをとる覚悟があるティッシュ配りとしては、今こそが好機と信じて疑わない。
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