ミャンマー情勢の最新情報 Vol.11(対立の構図は新たなステージへ)
※ 本記事は、2021年2月14(日)ミャンマー時間12時半に執筆しています。
※ クーデター発生日より、毎晩Clubhouseにて音声での情報発信を行っています(@myanshin)。ネット回線遮断時はご容赦下さい。ミャンマーの今を知って頂きたいという「信念」に基づいてお届けしています。
※ 企業向けに情勢分析レポートも別途承ります(info@tvpmyanmar.com)。現地ビジネス展開にかかる方針・シナリオ設計、合弁解消、資産売却、事業撤退手続き等幅広くご支援が可能です。
※ 発生日からの時系列、2月1日(月)、2月2日(火)、2月3日(水)、2月4日(木)、2月5日(金)、2月8日(月)、2月9日(火)、2月10日(水)、2月11日(木)、2月12日(金)の記事も合わせてご覧ください。
クーデター発生から14日目を迎えた。
毎朝目覚めると共に、あたかも「全ては悪い夢で目の前には以前のミャンマーがある」かのような感覚に襲われる。それほど世界はこの2週間で一変してしまった。国軍側による徹底的な弾圧の姿勢は、全ての希望の炎を吹き消し去りつつあるかのようにも感じ取れる。
<国家統治評議会の機能・構成>
目下、国軍側による様々な法改正の動きがあるが、現在のミャンマーの立法、行政にかかる機能についてまずは整理しておきたい。
2月1日のクーデターに伴う非常事態宣言(State of Emergency)により議会は解散され、立法、司法、行政の全権が国軍司令官に委譲された。憲法419条では「国軍司令官は、自ら立法権を行使するか、自らを含む組織によって行使することが出来る(The Commander-in-Chief of the Defense Services may exercise the legislative power either by himself or by a body including him.) と定めており、国軍司令官は自らを議長とする 国家統治議評議会(SAC : State Administration Council) を設立した。
同評議会は2月2日の設立日には11名の構成員であったが、翌3日に更に5名が追加され合計16名によって構成されている。国軍側からは8名が参加。
同評議会は事実上の国権の最高機関であり、そこでの決定によって如何様にでも新法の制定、或いは法の改廃が可能となっている。
<実質的な国民の移動制限にかかる規制を発動>
2月13日(土)国家統治評議会はWard or Village-Tract Administration Lawの改正を発表した。
法の名称にあるWardとVillage-Tractとはミャンマーの行政区画を指している。ミャンマーには330の群(Township)があるが、Wardとはその下、Village-Tractとは更にWardの下の行政区画であり、ミャンマー全土では3,301のWard、13,588のVillage-Tractがある(詳細はこちらをご参照)。
今般の改正における重要なポイントは以下の通り。一応軽犯罪と位置付けられると考えられ、違反した場合の罰則規定は1万チャット以下の罰金、払わない場合は7日間以内の禁固となっている(27条)。
第17条:Ward若しくはVillage-tractの住民は、以下の事項が生じた場合、行政管理局に対する報告を行わなければならない(17. The person residing in the ward or village-tract shall inform the relevant Ward or Village-Tract Administrator if any of the following cases arises)。
(a)家族台帳に登録の無い或いは他のWard・Village-tractに住む者を宿泊させる場合( (a) coming and putting up as the overnight guest who is not listed in his family unit and is residing in other ward or village-tract)
(b)宿泊者が退去する場合((b) departure of the guest who comes and puts up)
本改正は大規模な集会の発生を抑制する目的と考えられる。
<プライバシー・安全保護法の一部休止>
上記の法改正に加え、同13日国家統治評議会は、プライバシー・安全保護法( Law Protecting the Privacy and Security of the Citizens)の改正を発表。同法は、NLD政権下において2017年に成立していた。
※ 同法の全文はこちら。今回の改正は、第5条、7条、8条の停止(Suspend)。
今回の改正により当局は捜査・押収・逮捕(search, seizure, or arrest)について同法の規定を経ずに行うことが可能となり(第5条)、裁判所の許可によらず24時間以上の拘束をすることも可能となった(No one shall be detained for more than 24 hours without permission from a court)。
既に12日夜から、当局は市中で広がるデモ活動或いは不服従活動(CDM : Civil Disobedience Movement)に参加している市民の逮捕を始めている模様だ。今回の法改正は、活動家の逮捕を加速させる宣戦布告とも受け取れる。
<CDM参加者に対する通報制度>
先の2つの法改正だけでも正気の沙汰とは思えないが、国家統治評議会は同13日に内部通報制度についても公表している。
今回の声明では、一部の者が「市民活動に対する圧力や脅威」を与えているとし(Some persons who are making various disturbances to the nation are putting different forms of pressures and posing threats to civil service personnel not to be able to serve the country well)、そのような者に対する法的措置を与えるべく、各地域の連絡先(電話番号・E-mail)への報告を要請するものだ(for receiving legal assistance and taking legal actions against those who make disturbances and harassment, the following phone numbers and e-mail addresses can be contacted)。ご丁寧に各管区・州の通報先を複数掲載している。
これにより、いかなる者もその真偽によらず通報を受けかねず、先のプライバシー安全保護法の停止との合わせ技により、当局の裁量次第で逮捕までもっていかれる。抗議活動を行う市民の中で疑心暗鬼を生じさせる国軍の狡猾な手法と捉えられるだろう。
<必死な抗議活動後に迎える深夜の恐怖>
上記の動きに先立ち、国家統治評議会は23,314名にもおよぶ大量の国内の囚人、また刑務所にいる55名の外国人に対する恩赦(State Pardon Order)を12日に公表した。Union Dayに合わせた恩赦としているが、国軍側の意図は国民への恐怖と混乱を植え付けることにあることは間違いがないだろう。
実際に今回解放された刑事犯が住民に危害を加える事態は同日夜から早速生じている。住居に忍び寄り放火や強盗を行っているケースがFacebook上で拡散されている。住民側は自警団を組成し当局や囚人に対抗するため、夜通しで鉄パイプ等を持って街の守備にあたっている。
これら国軍側の手段を選ばない相次ぐ措置は、平和的な抗議を続ける国民の疲労を一層増幅させている。
なお、政治犯支援協会(AAPP : Assistance Association for Political Prisoners) によれば、2月12日時点で今回のクーデター後に逮捕・勾留された人数は384名に達している(うち3名は有罪判決、24名は解放済み)模様だ。
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