ミャンマー情勢の最新情報 Vol.17(ミャンマーを取り巻く国際情勢が緊迫化)
※ 本記事は、2021年2月23日(火)ミャンマー時間13時半に執筆しています。
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※ 発生日からの時系列、2月1日(月)、2月2日(火)、2月3日(水)、2月4日(木)、2月5日(金)、2月8日(月)、2月9日(火)、2月10日(水)、2月11日(木)、2月12日(金)、2月14日(日)、2月16日(火)、2月17日(水)、2月19日(金)、2月21日(日)、2月22日(月)の記事も合わせてご覧ください。
「22222民主化運動」から一夜明けた2月23日、経済活動には一部再開が見られる。数百万人が参加したと見られる昨日のデモ活動から鎮静化はしたが、依然多くの企業・工場・政府機関が本日も不服従運動(CDM : Civil Disobedience Movement)を継続していると見られる。
全土に跨る大規模デモかつ明確な指導者がいない中で、大きな混乱が生じなかったこと、またミャンマー国民が平和的に秩序を保ったことは率直に誇らしい。
一方で首都ネピドーにおいてはデモ参加者20-30名程の逮捕者が出たとの報道があり、また実際の逮捕者は200名弱に及ぶとの一部情報も聞こえる。国軍側によるNLD幹部或いはNLDと近い企業関係者に対する粛清の動きは衰えておらず、高い緊張感は緩む気配を見せていない。
<米国による追加制裁が発動>
2月22日、米財務省(Department of the Treasury)の外国資産管理室(OFAC : Office of Foreign Assets Control)は、ミャンマー国家統治評議会(SAC : State Administration Council)の幹部2名を追加で制裁対象(SDN : Specially Designated Nationals)に指定。
今回の対象者は2月11日の制裁対象に何故か含まれていなかったマウンマウンチョー大将(General Maung Maung Kyaw) とモーミントゥン中将(Lt-General Moe Myint Tun)の2名。これでSACにいる国軍側メンバー8名全てが制裁に入った。
(国家統治評議会”SAC”の構成員と制裁リストとの関係)
米財務省は「自由と民主化を求めるミャンマー国民に寄り添い、クーデター及びその後の暴力活動への責任を取らせる(”The Treasury Department stands with the people of Burma as they work to secure freedom and democracy and remains committed to promoting accountability for those responsible for the coup and ongoing violence“)」と明言。
また、ミャンマー国軍に対しては「民主的に選出された政権の復活を直ちに断行しなければ更なる措置を講じる(”The military must reverse its actions and urgently restore the democratically elected government in Burma, or the Treasury Department will not hesitate to take further action” )」とし、追加制裁を匂わせた。
OFACは2月11日のバイデンによる大統領令(Executive Order)と共に10名の国軍幹部及び3社の国軍関連企業を制裁リストに加えていたため、クーデター後の制裁は累計で個人12名、企業3社となった。
<ASEANにおける不協和音>
ミャンマー軍事クーデターに対するASEAN各国の対応は相変わらず歩調が合わない。ASEANでは全会一致の原則があるため、一国でも反対の立場があれば協調した対応は出来ない。現状、北側のベトナム・カンボジア・タイは内政不干渉を貫く立場、南側のインドネシア・シンガポール・マレーシアは域内の問題として懸念を示す立場を概ねとっている。
マレーシアのムヒディン・ヤシン(Muhyiddin Yassin)首相とインドネシアのジョコ・ウィドド大統領(Joko Widodo)は双方の外相を通じて2021年のASEAN議長国であるブルネイに対して特別会合の開催を呼びかけることを合意。これを受けて2月17日、インドネシアのレトノ・マルスディ(Retno Marsudi)外相はブルネイを訪問しASEANとして一致した対応を求めた。
インドネシアの主張は、欧米・日本等の口調とは全く異なる。単にASEANとして「ミャンマー軍政に対して約束通りの公正な選挙の開催を呼びかける」ものに過ぎない。邪推すれば今回のクーデターを受け入れる主張とも捉えられるであろう。仮にASEANとして共同声明を出せたとしても、NLD幹部の解放や総選挙結果を受け入れて欲しいミャンマー国民の声とは程遠いのが実情だ。
<EUによる批難決議>
日本では2月21日の吉田外務報道官による談話に続いて、22日には加藤官房長官が「民主的な政治体制の早期回復を改めて国軍に強く求めていきたい」と発言。日・米・英の3か国が批難声明或いは制裁発動を続ける中で、欧州連合(EU)の動向が注目されていた。
そのような中行われた22日のEU外相理事会では、ミャンマー国軍に対して制裁を科すこと、また経済支援を見直すことで合意。具体的な内容については今後速やかに公表されるものと見込まれる。
声明では、「EUは非常事態宣言の即時廃止、文民統治の回復、選出された議員による国会の開始を通じて危機の緩和を求める(“The European Union calls for de-escalation of the current crisis through an immediate end to the state of emergency, the restoration of the legitimate civilian government and the opening of the newly elected parliament”) と2月1日のクーデター以前の状態に戻すことを要求。
EUの制裁措置においては、ミャンマー経済に対して強い影響を与え得る一般特恵関税(GSP : Generalized System of Preferences)の行方について特に注視する必要があろう。ミャンマーの主要産業のうちの一つである縫製業においてはEU向けの輸出が全体の5割超に上るからだ。
コロナ禍を受けてEU市場の需要が減退したことを受け、ミャンマーの縫製工場は操業停止や雇止めの影響を既に受けていた状況にあった。そのような中、EUがGSPを凍結すれば多くの工場労働者が雇用を失う事態に生じかねない。一般国民に対して影響を与える制裁については、極めて慎重であるべきであろうと思う。
<反発を強める中国>
2月15日に行われた在緬中国大使チェンハイ(陳海 : Chen Hai)の記者会見内容が改めて注目されている。 ※ チェンハイ大使による質疑応答全文は、こちら
中国としてのスタンスは今般の政変を「大幅な内閣改造(”Major Cabinet Reshuffle”)」と表現し日本及び欧米が「クーデター(Coup)」とすることとは大きな隔たりがある。
チェンハイ大使による発言として注目されるのは、中国が事前に通知を受けていたことを明確に否定していることだ(”we were not informed in advance of the political change in Myanmar”)。中国の王毅国務委員兼外相は、本年1月11~12日にミャンマーを公式訪問しており、アウンサンスーチー国家顧問やウィンミン大統領との会談の他に、帰りがけにミンアウンライン国軍司令官とも面談をしている。 その為、中国が事前にクーデター実行計画を通知されていたとの疑いが持たれていた。
また、チェンハイ大使は「このような事態は中国として望んでいたものでは無い(“absolutely not what China wants to see“)」とし、ネット規制に向けて中国がファイヤーウォール技術を支援しているとしている噂についても「馬鹿げている(“these are completely nonsense and even ridiculous accusations”)」 と一蹴した。
中国としては、ミャンマー国民の矛先が中国及び関連企業に及ぶことを何としても避けたい意向と見られる。
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