ミャンマー資本市場創設メンバーが語るミャンマー経済・投資の実際

ミャンマー情勢の最新情報 Vol.18(国家統治評議会が運営方針を公表)

※ 本記事は、2021年2月25日(木)ミャンマー時間16時に執筆しています。

※ クーデター発生日よりClubhouseにて音声での情報発信を行っています(@myanshin)。ネット回線遮断時はご容赦下さい。ミャンマーの今を知って頂きたいという「信念」に基づいてお届けしています。

※ 企業向けに情勢分析レポートも別途承ります(info@tvpmyanmar.com)。現地ビジネス展開にかかる方針・シナリオ設計、合弁解消、資産売却、事業撤退手続き等幅広くご支援が可能です。

※ 発生日からの時系列、2月1日(月)2月2日(火)2月3日(水)2月4日(木)2月5日(金)2月8日(月)2月9日(火)2月10日(水)2月11日(木)2月12日(金)2月14日(日)2月16日(火)2月17日(水)2月19日(金)2月21日(日)2月22日(月)2月23日(火)の記事も合わせてご覧ください。

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2月22日のゼネストでは全土で数百万に上るデモが生じたが、その後本日を含めて3日間は比較的落ち着いた日常が訪れている。

ネット遮断(深夜1時から朝9時)や不服従運動(CDM : Civil Disobedience Movement)に伴う銀行の休業は継続しているものの、スーパーや商業施設、縫製工場等は概ね日常を取り戻しつつある。オフィス勤務者も徐々に職務への復帰の動きが見られ、週明け(3月1日)からは通常勤務に戻す企業が多くなることが見込まれる。

足元、明日(2月26日(金))は多くの企業の給与振り込み日にあたり、銀行の業務が滞る中、給与が受け取れず混乱が生じる可能性はあるだろう。また、ヤンゴン市中のATMでは、現金が不足し引き出しが出来ない端末が続出しており、市民生活への影響は今後増々高まっていくことが予測される。

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<国軍による選挙結果集計が進展>

国軍により組織再編成が行われた選挙管理委員会(UEC : Union Election Committee)では、昨年11月8日の総選挙結果の見直しが進められている。総選挙後、早い段階(11月下旬頃)から野党及び国軍は当該総選挙において大規模な不正があったと主張し、またNLDがこれに応じなかったことが今回のクーデターの要因とも捉えられてきた。

2月24日の国営紙(Global New Light of Myanmar)による発表では、実際の有権者数よりも大幅に多い投票用紙の印刷があったことが指摘されている。

本来37百万人程のミャンマー有権者数に対して、上院では44,148千枚、下院では44,169千枚の印刷がなされたとされている。むろんこれは国軍側の発表であり真実である保証は全くない。25日の同紙報道においても引き続き選挙結果の見直し状況が発表されていることからすれば、国軍側は自らが主張してきた選挙不正を証明する作業を進めていく意向と読み取れる。

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<軍事政権による9つの方針が公表>

国軍が率いる国家統治評議会(SAC : State Administration Council)は、2月25日国営の新聞紙(Global New Light of Myanmar)を通じて、今後の国家運営にかかる基本方針として9つの目的(Nine Objectives)を公表。以下、その意訳と全文。

(1. 政治事項:Political affairs)

(A) 公平性・規律性を元にした”複数政党”民主主義の確立(Building of a Union based on democracy and federalism in practising genuine disciplined multiparty democracy in a full fairness manner)

(B) 全土の”停戦協定”を通じた恒久平和の実現(Emphasizing of restoration of eternal peace for the entire nation in line with the Nationwide Ceasefire Agreement (NCA)

(C) “独立性”・非同盟を基礎とした平和主義(Continuous practising of the “principle” of peaceful co-existence among countries by holding up the independent, active and non-aligned foreign policy

(2. 経済事項:Economic affairs)

(A) “近代的的技術”を用いた農業・畜産業等における生産の拡大(Further development of production based on agriculture and livestock breeding through modern techniques and all-round development of other sectors of the economy as well)

(B) 全国民の経済発展に向けた市場経済の安定化と”外国投資”の誘致促進(Stability of market economy and inviting international investments to develop the economy of entire ethnic people

(C) 国産品の生産拡大を通じた”雇用”の促進(Encouragement of local businesses to create employment opportunities to be able to produce many products of the State)

( 3. 社会的事項:Social Objectives)

(a) 真の”愛国心”の醸成(Uplift of dynamism of Union spirit as genuine patriotic spirit

(b) 全国民の”伝統と慣習”を尊重した文化等の保全(Preservation and safeguarding of cultural heritage and national characters by respecting the traditions and customs of all ethnic national peoples)

(c) “健康・教育”の向上(Uplift of health, fitness and education standards of the entire nation)

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<現地メディアへの影響>

2月21日、情報ソースとして個人的にも重宝していたミャンマーの英字新聞Myanmar Timesが3か月休刊することが公表された。同紙はミャンマーで最も購読者数が多く、また長い歴史を持つ英字新聞。英語版のみならずビルマ語版含む9媒体が対象。発刊元であるMyanmar Consolidated Mediaは2000年にソニースエ(Sonny Swe)とロスダンクリー(Ross Dunkley)によって設立。その後、2014年に卸売大手のミャンマーゴールデンスター(MGS : Myanmar Golden Star)のオーナーであるテイントゥン(Thein Tun)によって買収されており、完全に民間運営のメディア媒体である。

休刊の背景としては、軍事政権による言論統制に抵抗する意思表示として、同社ジャーナリストが10名以上(編集長職含む)が退職したことによるものと考えられる。

2月13日(土)に開催された情報省(MOI : Ministry of Information)による通達では、メディア各社に対して「倫理的(Ethically)」かつ「国民の不安を煽らない」表現を用いることが要請。(※当然ながら”国軍にとっての倫理”という意味

具体的には「Regime」や「Junta」といった表現への懸念が示された。「Regime」とは本来のフランス語的には「政治体制」を幅広く指すものであったが、近代では「権威主義的な政府」或いは「独裁政治」の意味合いを含むようになった。また、「Junta」は、広く「軍事政権」を指す言葉として理解されている。

国軍としては、現在の政治体制は憲法上認められた正統な権力構造であり、「Regime」や「Junta」では無いとの認識に基づくものだろう。

イラワディ紙(Irrawaddy)のインタビューによれば、同紙の記者は、経営陣による検閲を受け始め、例えば「クーデター(Coup)」は「権力移転(Power Transfer)」へ「軍のリーダー(the leader of military)」から「国家統治評議会議長」に表現を変えるように指示を受けたとしている。

報道規制に対するジャーナリストとしての抵抗活動は理解が出来るものの、ただでさえ少ないミャンマーのメディアソースが失われることは、現地情勢を国際社会に対して発信することの大きな障害となり得ると考えられる。

インプラント

<火消しに躍起なインドネシア>

2月17日にASEAN議長国であるブルネイを訪れていたインドネシアのレトノ・マルスディ(Retno Marsudi)外相は、24日バンコクにおいてミャンマー・タイ両国の外相と会談。国軍が任命したワナマウンルウィン外相としても再任命後初の外国訪問となった。レトノ外相は無事目的としていたASEAN外相会議の実現に漕ぎ着けた。

ASEANの中では今般のクーデターに対して、北側に位置するタイ・カンボジア・ベトナムが沈黙を保つ一方、南側のシンガポール・インドネシア・マレーシアは軍政を批難するスタンスが強そうだ。多少乱暴な表現であるが、北側は中国の影響が、南側は米国の影響が比較的強いと言えるかもしれない。

ASEAN加盟国における全会一致の原則からすれば、インドネシアとしては全加盟国の最大公約数を見出そうという努力を続けているとも見える。そのような中、妥協案として出した表現が「ミャンマー軍政に対して約束通りの公正な選挙の開催を呼びかける」 というものであったが、これが大炎上。22日からヤンゴンのインドネシア大使館の前ではデモ隊が大挙している。国軍、中国、シンガポールに続いて、今度はインドネシアが次の槍玉に上げられていた。

火消しに躍起なレトノ外相は当初25日にミャンマーを訪れる計画であった。ミンアウンライン(Min Aung Hlaing)国軍総司令官等との面談を申し入れていたようだ。インドネシアのトゥク報道官によれば(24日)、「ほかの加盟国と協議した結果、いまはミャンマーを訪れるのに適切な時期ではないと判断した」 とのことではあるが、実際には外国人との面談を拒む国軍総司令官とのアポが取れなかった可能性が高いと考えられる。また、大炎上中の中突き進むことで、更に油を注ぎかねないとの判断があったとも思われる。

インドネシアは、北ASEANに影響力を持つ中国を巻き込んでASEANとしての一致した対応を進めていく意向だろう。 現にレトノ外相は24日の3外相会議の前に中国の王毅(Wang Yi)外相と電話会議を行っている。また、同女史はASEANとしての会合に中国としての協力(”Hoped that China would support it“)を要請している。

ミャンマーを巡って中国及びASEANと、欧州・米・英による対立の構図が深まることが懸念される中、日本の立ち位置の重要性が増々注目されてくるだろう。

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